2018/07/26(木) 21:33:06.00
お姉ちゃんが好き。

わたしが初めて思ったことは、それだった気がする。

きっとそんなことはなくて、覚えてない色んなことをいっぱいいっぱい思ってきたはずだけれど。

うーんうーんと頭を捻っても、それらを思い出すことはできなくて。

幼かった頃のことを一生懸命に思い出そうとしても、ふと浮かぶのは、いつだってその気持ちだけ。

わたしは座ってたっけ。

お姉ちゃんは立ってたかな。膝立ちだったかも。

とにかくわたしはお姉ちゃんを見上げていて、にこっと微笑む優しい瞳に、ああ――好きだなあ――なんて、思ったんだ。

そしてわたしがその気持ちを失ったことは、これまでに一度もない。

お姉ちゃんと喧嘩したときも、お姉ちゃん以外の誰か(たとえば花丸ちゃんとか)と仲良くなったときも。

一度もない。

わたしをわたしたらしめる最も太い幹のようなものがこの気持ちだということは、みんなが知ってる1たす1と同じくらい、真実だ。

だからわたしは今日も思う。

今日も言う。

いつまでだって、変わらないと誓えるこの想いを。


ルビィ「お姉ちゃん、だいすき」

***


12   2018/07/26(木) 21:35:34.53
***

ルビィ カリ…

ダイヤ「ルビィちゃん」

ルビィ「…」カリ…

ダイヤ「ルビィちゃんは、何年生になったの?」

ルビィ「ひゅうがくいふぃねんふぇい」カリ…

ダイヤ「そうね。だったら、そろそろツメを噛むクセは治さなくてはね」

ルビィ「…」カリ…

ダイヤ「いつまでもこうしていられると思ってるの?」

ルビィ「…だからだもん」カリ…

ダイヤ「……」ハァ

ルビィ「おねいちゃあ、すき」

ダイヤ「わたくしだって。誰よりもあなたのことが好きよ」ナデ

ルビィ「えへへ…」カリ…

ダイヤ「………ふふ」ナデ…ナデ…

***
13   2018/07/26(木) 21:37:01.56
***

ルビィ「おねいちゃあ! スクラジ始まっちゃう!」ドタバタ

ダイヤ「ゆっくりしすぎたわ!」ドタバタ

黒澤母「家の中で走ってはいけませんよ」

ダイルビ「「ごめんなさ〜いっ!」」ドタバタ…


ルビィ「おねいちゃあ! はいイヤホン!」サッ

ダイヤ「こっちはラジオの接続オッケーですわ!」ササッ

ダイルビ セイザッ

ラジオ『…始まりました、今週のスクラジ! ゲストは人気急上昇中の…このグループです!』

ラジオ『こんばんはーっ! 私達、ラブ☆フープです!』

ダイルビ「「ラブ☆フープ、キターーーーーー!!」」キャッキャ

ラジオ『まさかスクラジに呼んでもらえる日が来るなんてね』

ラジオ『ねー! スクールアイドル始めるずっと前から聴き続けてて、私達の最初の目標だったんですよ』

ラジオ『………………』

ルビィ「ラブ☆フープがとうとうスクラジに出ちゃったね…」

ダイヤ「感慨深いわよね…ラブ☆フープが結成前からスクラジを目指してきたというなら、わたくしたちは結成当時から応援してきたんだもの」

ルビィ「それに、ずっとスクラジを聴いてきたのはルビィたちだっておんなじだもん」

ダイヤ「わたくしたちがまだ高校生でないという、ただそれだけ…」

ルビィ「…ね、おねいちゃあ」グッ

ダイヤ「ええ。」グッ


手と手を重ねる。

言葉は必要ない。

何度も何度でも交わしてきた、お姉ちゃんとの――憧れの誓い。

***
14   2018/07/26(木) 21:38:06.77
***

オーイェー オーイェー オーイェー イッシンイッチョウ!

オーイェー オーイェー オーイェー ホラ、マッケナイヨネ?


ルビィ「くやしーなまーだのーぶらー しられーてないよのーぶらー」

ダイヤ「♪なにもかもこれから 熱い気分」

ルビィ「たのしーよでーものーぶらー」ダイヤ「♪Do you know?」

ルビィ「はりきってるんだのーぶらー」ダイヤ「♪Do you know?」

ルビィ「だからー」ダイヤ「♪おいで」ルビィ「ここでーであうー ためにー」ダイヤ「♪Yes, I know!」


〜♪


カーベーハ ダイルビ「「はいはいはい!!」」 コワセールモーノサ ダイルビ「「はいはいはい!!」」 タオセールモーノサ

ジーブーンーカーラモオト チーカーラーヲーダシテヨー

ダイルビ「「はいはいはい!!」」 コワセールモーノサ ダイルビ「「はいはいはい!!」」 タオセールモーノサ

ユーキデミーラーイーヲミーセテー

オーイェー オーイェー オーイェー ダイルビ「「うん 負っけないから!!」」

………………

………
15   2018/07/26(木) 21:39:12.19
ダイルビ「「へあ〜〜〜…」」ヘナヘナ

ルビィ「燃え尽きたね〜…」

ダイヤ「そうね〜…文化祭ライブは何度やっても最高だわ…」

ルビィ「ルビィね、おねいちゃんとμ'sの歌うたってるとき、とっても幸せ」

ダイヤ「わたくしもよ。こんなにも同じ温度で歌えるのはルビィだけだもの」

ルビィ「おねいちゃあ、μ'sのことになるとちょっとおかしいもんね」

ダイヤ「誰がおかしいのですか」

ルビィ「でもルビィはこっちのおねいちゃんも好きだよ」スリ

ダイヤ「お姉ちゃんはいつだって変わらないけれど、ありがとう」ナデ

ダイヤ「そういえばルビィ」

ルビィ「うゆ?」

ダイヤ「あなたまた『出会う』まで歌ったでしょう」メッ

ルビィ「あー…」

ダイヤ「『ここで』『出会う』『ために』はそれぞれ別のフレーズなのだから、あなたが『ここで』を歌うときは『出会う』をお姉ちゃんに譲ってっていつも言ってるわよね?」

ルビィ(始まったぞ)

ダイヤ「今日だってわたくしが咄嗟に合わせたからよかったものの、あんな風に打合せと違うことをされると一歩間違えばライブが失敗しかねないのよ」

ダイヤ「本当に仕方のない子なんだから…」ハァ

ダイヤ「もう一度やるわよ」ピッ


オーイェー オーイェー オーイェー イッシンイッチョウ!

オーイェー オーイェー オーイェー ホラ、マッケナイヨネ?


ルビィ「くやしーなまーだのーぶらー しられーてないよのーぶらー」

ダイヤ「♪なにもかもこれから 熱い気分」


〜♪

***
16   2018/07/26(木) 21:40:17.62
***

ー約一年後ー


ダイヤ「ただいま帰りました」


タタタタ…


ルビィ「おねいちゃあ! おかえりなさいっ!」ピョンッ ダキッ

ダイヤ「わっ…とと。ただいま、ルビィ」ギュ

ルビィ「おねいちゃんのにおい〜」スリスリ

ダイヤ「もう。お姉ちゃんまだ鞄も置いてないのに」

ルビィ「だって学校にいる間おねいちゃんに会えないんだもん」プクー

ダイヤ「だってじゃありません」クス

ダイヤ「クラスにお友達はできたの?」

ルビィ「うゆ…まだ…」

ダイヤ「あなたはとっても良い子なんだから。みんな仲良くしてくれるわよ」
17   2018/07/26(木) 21:41:28.59
ルビィ「でもルビィ、おねいちゃんがいればそれでいいから…」

ダイヤ「そのわたくしがいないんだから、お友達を作らなくっちゃ」

ルビィ「でもぉ…」

ダイヤ「でもじゃありません」クス

ダイヤ「ほら、あの子たちは? 石野さんと吉木さんでしたっけ」

ルビィ「クラスはなれちゃったからあんまり会わない…」

ダイヤ「あらら。せっかく仲良くなれたのにね」

ダイヤ「また新しくお友達を作らなくっちゃね」

ルビィ「もうやだぁ」

ダイヤ「やだと言っても仕方がないでしょう。お弁当も一人で食べて、教室移動も一人でするつもり?」

ルビィ「そんなの気にしないもん」

ダイヤ「あと二年間も?」

ルビィ「うう…」ピ…

ダイヤ「高校に入ってからも、わたくしと一緒にいられるのは一年間だけなのよ。残りの二年間、またおんなじように一人で過ごすの?」

ルビィ「うううう……」グズ…
18   2018/07/26(木) 21:42:54.36
ダイヤ「よしよし、泣かないの」ナデ

ダイヤ「みんな、最初に話し掛けるのは怖いのよ。ルビィだけじゃなくて、みんな同じ。だからこそ、勇気を出して話し掛けてくれたら誰だって嬉しいし、お友達になりたいって思うの」

ルビィ「…………」

ダイヤ「頑張れるわね?」

ルビィ「……」コク

ダイヤ「さすが我が妹。お姉ちゃんも応援してるからね」

ルビィ「うん…がんばる!」

ダイヤ「よーし。それじゃ、一緒にμ'sのライブを観ましょうか! 今日はどれにしましょうね〜」

ルビィ「ルビィあれ観たい! 凛ちゃんの!」

ダイヤ「ファッションショーの? あれ好きねえ、ルビィは」

ルビィ「うん! はやく観よー!」グイグイ

ダイヤ「もう。引っ張らなくたって、お姉ちゃんは逃げませんわよ」

***
19   2018/07/26(木) 21:43:57.77
***

カラリ…


ルビィ「おねいちゃあ。いっしょに寝ていー?」

ダイヤ「あらルビィ」

ダイヤ「構わないけれど、わたくしはもう少し起きてるわよ?」

ルビィ「お勉強?」

ダイヤ「そうよ」

ルビィ「えー。おねいちゃんならだいじょうぶだよ。いっつも一番だったもん」

ダイヤ「中学生の頃はね。高校に入ってからどんどん難しくなっていくからね、きちんと復習しておかないと」

ルビィ「どのくらいするの?」

ダイヤ「そうね…あと一時間くらいかしら」

ルビィ「じゃあ待つ!」ボフン

ダイヤ「ええ? 構わないけれど…眠くなったら寝るのよ」

ルビィ「うん! 本読んでるね」

ダイヤ「はいはい」

ダイヤ「…………」カリカリ

ダイヤ「…………」カリカリ

ダイヤ「……」チラッ

ルビィ スピー

ダイヤ「…ふふ、ほらね」

ダイヤ「まったく。すぐわたくしの布団を占領するんだから」

ダイヤ「お休みなさいな、ルビィ」チュ
20   2018/07/26(木) 21:45:06.16
ルビィ「ふあ…」パチ…

ルビィ「んあ。ここどこ…?」モゾモゾ キョロ

ダイヤ スー

ルビィ「あ。そっか、ルビィまたおねいちゃんのお布団で…」

ダイヤ スー

ルビィ「…えへへ」

ルビィ モゾモゾ


ギュ


ルビィ「おやすみなさい、おねいちゃあ」

ルビィ スピー

***
21   2018/07/26(木) 21:46:09.69
***

ドンナーアーシターガー

マッテールンダローナンテネボクハー ボクタチハー

スコシ、ズツ、テサ、グリシテッター


ルビィ「はーげーまーしあってー ぶーつーかーりあったーときでさえー」

ダイヤ「♪わかってた」

ルビィ「おん、な、じー ゆーめをみてーるーとー」キャッキャ

ダイヤ「♪目指すのはあの太陽……あら、ルビィ。間もなくお稽古の時間になるわ」ハッ

ルビィ「あっ…」ハッ

ルビィ「わすれてたー! すぐ準備してくるから!」パタパタ

ダイヤ「はいはい」

ダイヤ(どうもあの子は稽古を忘れがちね) フウ…

ルビィ「おまたせ、おねいちゃあ」テテテ

ダイヤ「では行きましょうか」スッ

ルビィ「うん!」
22   2018/07/26(木) 21:47:20.14
ダイヤ「今日はなにをするの?」

ルビィ「課題曲の大詰めやるってゆわれた」

ダイヤ「そう。原本先生のお持ちになる課題曲は難しいわよね」フフ

ルビィ「うん。でもおねいちゃんなら楽勝だったでしょ」

ダイヤ「そんなことないわよ。お姉ちゃんだって時間が掛かったわ」

ルビィ「うそだー…おねいちゃんのほうは、集まりの練習?」

ダイヤ「そうよ。この時期だからね」

ルビィ「どう?」

ダイヤ「特に不安もないわよ。もう毎年のことだもの」

ルビィ「すごいなあ…あんなたくさんの人の前で弾くなんて、ルビィには絶対できないもん…」

ダイヤ「ルビィだって、立奏ができるようになったのでしょう?」

ルビィ「そうだけど、立奏なんておねいちゃんは六年生でできたのに…」

ダイヤ「…ふふ」

ダイヤ「あなたにはあなたのペースがあるのだから、わたくしと比べる必要なんかありませんわ」
23   2018/07/26(木) 21:48:25.08
ダイヤ「さあ、行ってらっしゃい」

ルビィ「うん」

ルビィ「おねいちゃんはなにするの?」

ダイヤ「そうねえ。ライブの続きを観ちゃおうかしら」

ルビィ「だーめーっ! ルビィのお稽古終わったら一緒に観よう! それまで待っててー!」

ダイヤ「ふふ、冗談よ。勉強でもしてるつもり。終わったら一緒に観るって約束するから、お稽古を一生懸命やってきなさい」

ルビィ「はあい」

ルビィ「…おねいちゃんとお稽古の時間一緒だったらよかったのに」

ダイヤ「え?」

ルビィ「そしたらもっとたくさんおねいちゃんといられるのになって…」

ダイヤ「ルビィ…」

ダイヤ「先生が違うのだから仕方ありませんわ」ポン

ダイヤ「その分、一緒に過ごせる時間をもっともっと大切にしていきましょう。ね?」

ルビィ「うん…」

ダイヤ「さ、ほらお行きなさい。先生をお待たせしてはいけませんから」ナデ

ルビィ「はあい。いってきます」テテテ…

***
24   2018/07/26(木) 21:49:16.67
***

お姉ちゃんと遊んで、歌って、お話しして。

お姉ちゃんに甘えて、頼って、守られて。

お姉ちゃんが好きで、好きで、大好きで。

ルビィだけの大切なお姉ちゃん。


それは、ずっと変わらないと思っていました。

***
25   2018/07/26(木) 21:50:56.71
***

アイセー ヘイ! ヘイ! ヘイスターダッ!

ヘイ! ヘイ! ヘイスターダッ

〜♪


ルビィ「うぶげのことりーたちーもー いつかそらにはばたくー」

ルビィ「おおきなつよいーつばーさーでー と、ぶ!」キャッキャ

ダイヤ ジィッ…

ルビィ「……?」

ルビィ「おねいちゃあ?」

ダイヤ ハッ

ダイヤ「ああ、なあに? ルビィ」

ルビィ「なんだかぼーっとしてたから…」

ダイヤ「ふふ。そう見えた? ぼーっとしてたんじゃなくて、じーっと観てたのよ」

ルビィ「今日は歌い狂わないの?」

ダイヤ「わたくしは歌い狂ったことなどありません」

ダイヤ「ちょっとね、ダンスとか…しっかり見たくて」

ルビィ「…? そういう日もあるよね」ウンウン

ルビィ「じゃあ今日はルビィもダンスしっかり見る日!」
26   2018/07/26(木) 21:52:02.83
ルビィ ジィッ…

ダイヤ ジィッ…


アシタヨ カ、ワ、レ! キボオニ カ、ワ、レ!


ルビィ ウズ…


マブシーヒカーリーニー テラサーレテーカワレー


ルビィ「すたーっ!」バッ

ダイヤ ビクッ

ルビィ「かなしみにーとーざされーてー なくだけのーきーみじゃなーいー」キャッキャ

ダイヤ「ふふ…」


キイトー キイトー キミノー ユメノー

チカラー イマヲー ウゴカスチカラー


ダイヤ ジィッ…

ダイヤ「なるほど…」

***
27   2018/07/26(木) 21:53:20.54
***

コンコン カラリ


ダイヤ「ルビィ」

ルビィ「なーに?」

ダイヤ「『月刊スクールアイドル』何冊か借りてもいいかしら」

ルビィ「うん、いーよ。どれがいい?」

ダイヤ「そうねえ…あれ何月号だったか覚えてる? あわじきんちゃくともちピーポーが特集されてたの」

ルビィ「あわじきんちゃくさんは去年の6月号で、もちピーポーさんは今年の2月号だよ」

ダイヤ「ありがとう。それと、うーん……ああ、この辺なんか良いかも」ヒョイヒョイ

ルビィ「………」ジッ

ルビィ「みんな三人組のだね」

ダイヤ「ええ、そうね。参考にしたくて」ンー

ルビィ「参考? なんの?」

ダイヤ ハッ

ダイヤ「あ、えっと、その…授業の課題でね、音楽と体育の」

ルビィ「そっかあ! がんばってね!」

ダイヤ「ええ、ありがとう。借りていくわね」

ルビィ「は〜い」


カラリ… パタン


ルビィ「〜♪」

ルビィ「…音楽と体育の??」ン?

***
28   2018/07/26(木) 21:54:51.43
***

梅雨。

ルビィのあんまりすきじゃない季節。

しとしと、しとしと。

毎日、音を立てずに雨が降り続けます。

クラスに、何人かお友達ができました。

お弁当を一緒に食べて、教室移動を一緒にするお友達が。

でも、どんくさいルビィはいっつも会話についていけなくて、移動にもついていけなくて、相づちを打つのも隣に並ぶのもやっとです。

正直、つかれます。


ルビィ「おねいちゃんだったら、お話しするのも歩くのも合わせてくれるのにな」


居間で一人、お姉ちゃんの帰りを待つ時間。

学校は楽しいことばっかりじゃない。

どちらかと言えば楽しくないことのほうが多いようにさえ思います。

それでも、学校に行かなくなることだけはしたくない。

たとえば嫌いな教科しかない日でも、たとえばお友達と気まずくなった次の日でも、それだけは。

だって、わたしは黒澤ルビィ。

黒澤ダイヤの妹だから。

わたしが情けないと、お姉ちゃんが責められる。

それだけは絶対に嫌だから。
29   2018/07/26(木) 21:56:11.54
それに、学校があんまり楽しくないことなんて、実はルビィにとってそこまで大きな問題じゃないのです。

家に帰ればお姉ちゃんがいる。

そう思うだけで、昔から国語だって算数だってへっちゃらでした。

同じ学校に通っていたときは、毎日お姉ちゃんの教室の前で待って、一緒に帰っていました。

二つも学年が違うから、一時間や二時間待つことだってよくあったけれど、そんなのは全然たいしたことじゃなくて。

教室から出てきたお姉ちゃんに飛び付く瞬間が、なによりもなによりも幸せでした。

お姉ちゃんが中学校や高校に上がってしまっても、それは変わらない。

こうやって居間でお姉ちゃんが帰ってくるのを待って、そして、一番に「お帰りなさい」を言う。

お姉ちゃんは、用事があってもいつでもまっすぐ帰ってきて、必ず一度帰ってきて、「ただいま」と言ってくれる。

ルビィが待っているのを知っているから。

その優しさが嬉しくて、そんなお姉ちゃんが大好きで。

ねえ、お姉ちゃん。

ルビィはずっとお姉ちゃんのことが大好きだよ――お姉ちゃんも、同じだよね……

………………

………
30   2018/07/26(木) 21:57:16.40
ルビィ「…んぁっ」


からだがビクリと跳ねて、目を覚ます。

うとうとしちゃっていたみたいです。


ルビィ「…おねいちゃんは?」


慌てて時計を見ると、六時になろうとしている。

外は雲と雨で明るくはないけれど、まさか朝方なんてことはないはずで…

玄関へ行き、靴を確かめます。


ルビィ「…ない」


まだ帰ってきていないのか、それとも帰ってきて出かけてしまったのか。

帰ってきたなら居間のわたしに気付かないはずがないし、気付いたなら声を掛けてくれないはずがない。

前に一度、それでわたしがひどく拗ねちゃったことがあるから。

なにか学校で用事があって、たとえば先生にお願い事をされちゃったとか、お友達にお勉強を教えてあげてるとか、どうしても断れない用事があって、遅くなってる…ん、だよね。

だって高校生だもん。色んなことがあるはずだもんね。


ルビィ「おねいちゃあ…」


ぐずぐずとした空は、雨のにおいだけを強く振り撒いています。

………………

………
32   2018/07/26(木) 21:58:41.08
ガラガラ、と扉が引かれる。

聞き間違えるはずのない足音。


ダイヤ「ただいま帰り――

ルビィ「おねいちゃあっ!」ピョンッ ダキッ

ダイヤ「きゃっ?!」ギュ

ダイヤ「もう、危ないわよ。まだただいまを言い切っても…」

ルビィ「おかえりなさい…遅かったね」ギュウ…

ダイヤ「え? ええ、そうね」

ルビィ「………」ギュウッ

ダイヤ「………?」


気持ちが抑えられない。

お姉ちゃんはまだ足が片っぽ家に入っていなくて、わたしは靴下のままで、戸惑う息づかいも伝わってくる。

けれど、なんだかとっても不安で。

なにかが変わってしまったような胸騒ぎに、お姉ちゃんの腰に回した腕に、ぎゅうっと力を込める。


ルビィ「帰ってこないかと思った…」
33   2018/07/26(木) 21:59:40.47
情けない本音に、ふふ、と優しい声。


ダイヤ「ばかね。そんなわけがないでしょう?」ナデ

ルビィ「うん…」ギュ

ダイヤ「とりあえず、家にあがってもいいかしら」

ルビィ「あっ! ごめんなさい!」バッ

ダイヤ「ルビィなんかつっかけもなしに。汚れを落としてからあがるのよ?」クス

ルビィ「はあい」


玄関で両足をはたく。

お姉ちゃんは傘を閉じて、鞄を置いて、靴を脱いで。

大好きなにおいにすっかり気持ちは晴れてしまった。

お夕飯までは時間があるから、先にお風呂に入っちゃおうかな。


ルビィ「ねえ、おねいちゃあ。一緒にお風呂、

ダイヤ「そうそう、ルビィ。話したいことがあるのよ」

ルビィ「へ?」

ダイヤ「お部屋に行ってもいいかしら」

………………

………
34   2018/07/26(木) 22:00:51.49
ルビィ「スクールアイドルを…」

ダイヤ「ええ。果南さんはわかるわよね。それと、同じクラスの鞠莉さんって方とね、三人で」


お姉ちゃんがスクールアイドルを始めた。

三人で。


ダイヤ「ダンスも、歌も、全部自分たちで作るの…スクールアイドルなら当然のことなのですけどね」

ダイヤ「実際にやってみて初めてわかったわ。すごく大変」


頭の中で、いくつかのことがパチパチとパズルみたいに繋がった。

ダンスを熱心に見ていたのも、スクールアイドルの雑誌を借りていったのも。


ダイヤ「あわじきんちゃくも、もちピーポーも、もちろんあのμ'sだって通った道ですものね」

ダイヤ「わたくしたちには真姫さんも海未さんもエリーチカもいないけど、絶対にやれるって…そう感じるの」


そして、今日、帰りが遅かったのも。


ダイヤ「ね、ルビィ。応援してちょうだいね」

ダイヤ「あなたが浦女に入ったら、一緒にやりましょうね」


全ては、スクールアイドルを始めたから。


ルビィ「…うん! がんばってね、おねいちゃあ!」

***
35   2018/07/26(木) 22:01:50.41
***

嫌な気持ちはなかった。

なによりも驚きが強かったのと、それに、ここから始まるーーそんな期待が強かったから。

お姉ちゃんとルビィは、物心がついてから、ずっとずっとスクールアイドルに憧れてきました。

ルビィも高校生になったら始めるつもりです。

だから、ここからお姉ちゃんが走り始めることを思うと、わくわくしてどきどきして、がんばれ!って、それしか考えられなくって。

誰よりもおっきな声で、誰よりもおっきな拍手で、応援できる。


はず、でした。

***
44   2018/07/27(金) 00:46:13.98
***

カラリ…


ルビィ「おねいちゃあ。いっしょに寝ていー?」

ダイヤ「あら、ルビィ。構わないけれど、わたくしはもう少し起きてるわよ」

ルビィ「今日もお勉強?」

ダイヤ「勉強…といえば勉強ね」

ルビィ「?」

ダイヤ「スクールアイドルのね。作詞を担当することになったの」

ルビィ「おねいちゃんが作詞するの?!」

ダイヤ「そうよ。だから、色んなスクールアイドルの曲を聴いて、お勉強なの」

ルビィ「すごいすごい! できあがったらルビィにいちばんに読ませてね!」ピョンピョン

ダイヤ「ええ〜? 果南さんたちよりも先に?」

ルビィ「先にー! ルビィが最初!」

ダイヤ「もう…仕方ありませんわねえ」クス

ルビィ「じゃあ終わるまで本読んでるね」ボフ

ダイヤ「またわたくしのお布団に…はいはい」
45   2018/07/27(金) 00:47:00.57
ルビィ「〜♪」パタパタ

ルビィ「あ」

ルビィ「そうだ、ねえおねいちゃあ」

ダイヤ「…」

ルビィ「…おねいちゃあ?」

ダイヤ「…」

ルビィ「あ、イヤホンか…」

ルビィ「…あとにしよっと」

***
46   2018/07/27(金) 00:48:02.28
***

ダイヤ「ただいま帰りました」


タタタタ…


ルビィ「おねいちゃあ! おかえりなさいっ!」ピョンッ ダキッ

ダイヤ「わっ。…とと、ただいまルビィ」ギュ

ルビィ「くんくん…汗のにおいがする」

ダイヤ「んなあっ?! お、おやめなさい!」// ジタバタ

ルビィ「今日もいっぱい練習おつかれさま、おねいちゃあ」ニコッ

ダイヤ「あ…」ピタ…

ダイヤ「ええ。たくさん踊ってきたのよ」

ルビィ「今日はなに踊ったの?」

ダイヤ「ふふ。覚えているかしら、この前の曲」

ルビィ「おねいちゃんが作詞したやつ!」

ダイヤ「そう。果南さんが考えてきてくれたダンスをね、みんなで合わせてみたの」

ダイヤ「まだまだ課題だらけだけれど、だからこそやりごたえも感じられる」

ダイヤ「ルビィとも、早く一緒にやりたいですわね」ニコッ

ルビィ「うう〜……」

ルビィ「ルビィもやりたい! ね、おねいちゃあ。ダンス教えて!」

ダイヤ「ええ? わたくしたちがやってるやつを?」

ルビィ「うん! おんなじの踊りたいーっ」グイグイ

ダイヤ「も、もう…疲れちゃったから、また今度でもいい?」

ルビィ「えー」

ダイヤ「約束。必ず教えるから。ね?」

ルビィ「うゆー……はあい」プクー

***
47   2018/07/27(金) 00:49:11.55
***

カラリ…


ルビィ「おねいちゃー。いっしょにライブ観よー」パタパタ

ダイヤ「ああ…ごめんなさい、ルビィ。今日はこれから出掛けるのよ」

ルビィ「えー、おでかけ?」

ダイヤ「お出掛け…という感じではないわ。スクールアイドルの練習に、ね」

ルビィ「ああ……」

ダイヤ「だから、ごめんね。もう少ししたら出ちゃうの。夕方には戻るから、帰ってきてから一緒に観ましょう?」

ルビィ「うん…」

ルビィ「……」

ルビィ「ルビィも行っていい?」

ダイヤ「えっ。来ても楽しくないでしょう」

ルビィ「楽しくなくてもいいの。いっしょに行っていい?」

ルビィ「スクールアイドルのことならわかるし、お手伝いもできるよ」

ダイヤ「うーん…果南さんたちに聞いてみますね」

ルビィ「うん」

ダイヤ「…あ、もしもしダイヤです。少しよいですか?」

………………

………
48   2018/07/27(金) 00:50:20.90
果南「あ。ダイヤ来た」

鞠莉「ハァイ、ダイヤ!」ノシ

ダイヤ「遅くなりましたわ」

果南「あれ? ルビィも来るんじゃなかったの?」キョロ

ダイヤ「え? あら? ルビィ?!」キョロキョロ

鞠莉「ねえ、もしかしてあれじゃない?」

壁|ビィ コソ

果南「ほんとだ」

ダイヤ「〜〜〜っ…もう、あの子ったら」スタスタ

ダイヤ「ルビィ。こんなところにいないで、向こうでお二人にご挨拶なさい」

ルビィ「うゆ…」モジ

ダイヤ ハァ

ダイヤ「じゃ、お姉ちゃんと手を繋いでいきましょう。それなら怖くないでしょ?」スッ

ルビィ「うん…」スッ


トテトテトテ…


果南「手ぇ繋いでる」

鞠莉「カワイーね!」
49   2018/07/27(金) 00:52:46.46
ダイヤ「ご存知とは思いますが、妹のルビィですわ」

ルビィ「お、おねいちゃんの妹の黒澤ルビィです…」ペコッ

果南(お姉ちゃんの妹…)

鞠莉(苗字も名乗った…)

ダイヤ「果南さんと、」

果南「やっほー、ルビィ。久し振り」

ルビィ「あ…おひさしぶりです」ペコッ

ダイヤ「こちらは鞠莉さんよ」

鞠莉「チャオ〜」

ルビィ「こんにちは…」ペコッ

果南「しばらく見ない間に、またダイヤに似てきたねえ」

ダイルビ「「そ、そうですか?」」テレ

果南「顔立ちはまだまだあどけないけどね」

鞠莉「なんだか小動物みたいね」

ルビィ「ぴっ?!」ビクッ

ダイヤ「ルビィは怖がりなのですから、あまり変なことを言わないでください。…鞠莉さん、ルビィとは初めましてではありませんわよね」

ルビィ「えっ」

鞠莉「そうね。ダイヤの家に遊びにいくと、必ずいたもんね」

ルビィ チラッ

ダイヤ「本当よ。鞠莉さんは何回か我が家に遊びにきているし、ルビィもほとんど毎回同席していたのだけれど…」
50   2018/07/27(金) 00:54:48.81
果南「ルビィはダイヤにべったりだったからねー。私だって小学一年生の頃から遊びにいってたのに、三年生くらいにしてやっと口きいてもらえたし」アハハ

ダイヤ「果南さんは怖がられていましたからね」

果南「えー、そうなの? なんで?」

ダイヤ「ルビィに絡もうとしてやたら追い掛け回していたからですわ」

果南「そうだっけ?」

鞠莉「追い掛けるのやめたらお話ししてくれたの?」

果南「わかんない。忘れちゃった」

ダイヤ「……初めてお二人が話をした日は、果南さんが『渾身の秘策』と称して、ルビィの好きな飴を用意してきたのです」

鞠莉「食べ物で釣ったの…」

果南「食べ物で釣れたの…」

かなまり((あとなんでそんなことまで覚えてるんだ…))

ルビィ「…あのとき果南さんにもらったあめ、まだ残ってます」エヘヘ

かなダイまり「「「??!!」」」

………………

………
51   2018/07/27(金) 00:55:55.31
果南「それじゃ、始めよっか」


少しの雑談の後、果南さんがそう言いました。

やっと相づちが打てるくらいに緊張が解けてきたと思ったんだけど…でも、そもそも今日は遊びにきたわけじゃないし。

お姉ちゃんは、その言葉でぱっと真剣な表情に変わりました。

それは、日舞のお稽古をするときのすごく真剣な表情とは全然ちがう――真剣で、でもどこか楽しそうな表情。

真剣な笑顔、とでも言えばいいのかもしれない。

ふと見てみたら、果南さんも鞠莉さんも同じ表情で。


ルビィ「…………」モヤ…
52   2018/07/27(金) 00:59:26.81
果南「ルビィ。ラジカセお願いしてもいい?」

ルビィ「あ…はい」

鞠莉「急いで立ち位置に入らなくていいから助かるね」

ダイヤ「ふー……」

鞠莉「ダイヤ、もしかして緊張してる?」

ダイヤ「…少し」

果南「ルビィの前だもんね」

ダイヤ「あのねルビィ、まだ始めたばかりだから、その、」

ルビィ「…大丈夫だよ、おねいちゃあ。穂乃果ちゃんもエリーチカも、最初はへたっぴだったんだもん」

果南「ふふ。ルビィのほうが私たちよりよっぽどオトナかもね」

ダイヤ「わたくしの妹ですもの。当然ですわ」

鞠莉「ダイヤよりオトナよ」

ダイヤ「んなあっ?! そんなこと…いえもちろんルビィもオトナなのですが、わたくしより…だからといって」

ルビィ「音楽スタート」カチッ

ダイヤ「早い!!」

果南「さ、お喋りはおしまいだよ」


そして、曲が始まった。

………………

………
53   2018/07/27(金) 01:00:22.68
それから約四時間。

お昼ごはんや休憩を挟みながら、お姉ちゃんたちは練習を続けた。

歌って、踊って、話し合って、筋トレして。

その一つひとつが、たどたどしくって、ういういしくって――なんて、やったことのないルビィが言うのは失礼だけれど。

プロのアイドルにも、μ'sにも、それ以外のスクールアイドルにだって遠く及ばないそれらは、人から見ればお遊戯会と大差なかったかもしれない。

でも。


果南「鞠莉! また声裏返っちゃってるよ!」

鞠莉「あ〜ん、もうっ。why?! こんなメロディラインにしたの」

ダイヤ「そういう果南さんこそ、手が左右逆ですわよ」

果南「あれー?! 完璧だったと思ったのに」


その全てを、心の底から楽しんでいて。


ダイヤ「ふうっ」

ダイヤ「…ね、どうかしら。お姉ちゃんたちの練習」

ルビィ「……うん! すっごくかっこいい!」


真剣な笑顔が三人だけの合言葉であるかのように、ルビィには感じられました。

***
54   2018/07/27(金) 01:21:08.11
***

カラリ…


ルビィ「おねいちゃー……」


ガラン…


ルビィ「…あれ?」





ルビィ「?」スッ

ダイヤ『おはよう。今日も練習に行ってくるわね。夕方には戻ります』

ルビィ「………っ」


ルビィ「……おねいちゃあ…」

***
55   2018/07/27(金) 01:43:00.25
***

ダイヤ「ありがとうございました。またよろしくお願いいたします」スッ パタン…

ルビィ「おねーちゃ」

ダイヤ「あら、ルビィ。待っててくれたの?」

ルビィ「うん、お稽古お疲れさま。お琴ルビィが持つ!」カシテー

ダイヤ「ありがとう。それじゃお願いするわね」ハイ

ルビィ「おねいちゃんのお琴、廊下でずっと聴いてたの。やっぱり上手だなあって思った」テトテト…

ダイヤ「ふふ…わたくしの音を最も純粋に楽しんでくれるのは、きっとルビィなのでしょうね」スタ…スタ…

ルビィ「絶対そうだよ! おねいちゃんのことすきな気持ちはルビィ誰にも負けないもん!」

ダイヤ「わたくしだってそうよ。ルビィのことを好きな気持ちは誰にも負けませんわ」

ルビィ「えへへー」テレテレ

ルビィ「ね、おねいちゃあ。今日はもうなにもないでしょ? 案内所にみかんアイスでも食べに…」

ダイヤ「あ…ごめんね、ルビィ。実は、三時から果南さんたちと集まることになったのよ。ダンスで確認したいところがあるからって」

ルビィ「……そっか」

ルビィ「練習なら仕方ないね」

ダイヤ「ええ…ごめんね」

ルビィ「ううん、平気」フルフル

ルビィ「…」

ダイヤ「……あ、ルビィも一緒に来る? ほら、ダンス教えるって約束、まだ果たせてなかったし…せっかくなら、」

ルビィ「行かない」
56   2018/07/27(金) 01:44:18.72
ダイヤ「…ルビィ」

ルビィ ハッ

ルビィ「あ、あの、せっかく集まるのにルビィに教えるので時間使っちゃったらもったいないから、練習はしっかりやらなきゃ意味ないし、だから、うん、今日は行かない。また今度行く」アセ

ダイヤ「そ…そうね。急についてきたら果南さんたちの練習予定も狂うものね。また今度、事前に申し出ておいてから一緒に行きましょうね」

ルビィ「うん…そうする」

ルビィ「…おねいちゃあ、準備してきていいよ。お琴はルビィが片付けとくから」

ダイヤ「え? いや、それは悪いから…」

ルビィ「いいから。ね? 急がないと、走って行かなきゃいけなくなっちゃうよ」

ダイヤ「…ええ、それじゃ任せるわね」

ルビィ「うん」

ダイヤ「また、後でね」

ルビィ「うん。いってらっしゃい」


スタスタ…


ルビィ「…っ」


――鞠莉『もー、ダイヤってば』アハハ

――果南『しっかりしてよー? ダイヤ』アハハ

――ダイヤ『お、お二人だってー!』

ワイワイ… ワイワイ…


ルビィ「おねいちゃあ…」グスッ

***
57   2018/07/27(金) 06:57:05.10
***

タタタ… ガラッ


ダイヤ「ただいま帰りましたわ!」ハアッ


シン…


ダイヤ「…あら?」

ダイヤ「ルビィ?」

ダイヤ「ルビィ、いないのー?」


シン…


ダイヤ「あの子のほうが遅いなんて…」スッ

ダイヤ『帰ったわよ。出掛けてるの?』スマスマ

ダイヤ「ルビィに『おかえり』と言われないのは、いつぶりでしょうね」

ダイヤ「…」

ダイヤ「急いで帰ってきたんだけどな…」

………………

………
58   2018/07/27(金) 06:58:05.76
ルビィ「ただいまー」

ルビィ「あれ? おねいちゃんの靴だ…」

ルビィ トコトコ…


タタタ…


ダイヤ「ルビィ?!」バッ

ルビィ ビクッ

ルビィ「あ、おねいちゃあ…ただいま。どうかしたの? 早かったね」

ダイヤ「どうかしたのはお姉ちゃんの言葉よ…帰ってきたらあなたいないし、連絡しても返事もないから…」

ルビィ「え?」スッ

ルビィ「あっ。ごめん、見てなかった」

ルビィ「ちょっと学校に居残ってただけだよ」

ダイヤ「そう…」

ダイヤ「それならよかった…」ヘナ

ルビィ「心配かけちゃってごめんなさい」

ダイヤ「いいのよ。たまたまわたくしのほうが早かっただけなのね」

ダイヤ「さ、疲れたでしょう。お姉ちゃんがお茶淹れるから、居間でライブでも観ましょう」

ルビィ「お菓子も食べていー?!」

ダイヤ「お菓子はだめです。お夕飯前よ」メッ

ルビィ「はあい…」

ダイヤ「鞄を置いていらっしゃい」クス

ルビィ「うん! すぐ戻るね」テテテ…

***
59   2018/07/27(金) 06:58:39.33
***

ー数日後ー


ダイヤ「ただいま帰りました」


シン…


ダイヤ「今日もいないのね…」

………………

………
60   2018/07/27(金) 06:59:57.13
『スクールアイドルの歴史』


ルビィ「 」ペラ… ペラ…


放課後、学校の図書室。

ここ最近、ルビィは授業が終わってから図書室に行くことが多くなりました。

学校が終わったら走って帰って、居間でお姉ちゃんを待って、そして一番に「おかえりなさい」を言う。

いつからか、もう数年間も欠かしたことがなかったのに、それができなかった。

そのことが、ほんとは悔しくって――でも。

何年間も続けてきたこだわりはルビィの一人相撲かもしれない。

そんな風に考えていたけれど、そんなことはなかったんです。


――ダイヤ『ルビィ?!』バッ

――ダイヤ『帰ってきたらあなたいないし、連絡しても返事もないから…』

――ダイヤ『よかった…』ヘナ


帰ってきてルビィがいないと、お姉ちゃんは心配する。

何事もなかったとわかったら、お姉ちゃんは安心する。


ルビィ「うふふ…」


ね、お姉ちゃん。

一人って、結構さみしいものでしょ?

ルビィがいないと、さみしいでしょ――?

***
61   2018/07/27(金) 07:14:34.52
***

委員長「きりーつ、きをつけー、れー」


それから二週間ほど経ちました。

今日もルビィは図書室に向かいます。

最初はただ時間を潰すためだけに選んだ場所だったけれど、少しずつ図書室そのものが好きにもなってきました。

スクールアイドルの本、可愛い衣装の本、懐かしい童話。

本がたくさんあって、今日はなにを読もう、明日はなにを読もう、なんて考えるのが楽しかったりします。

ちなみに昨日は『おいしいイチゴ図鑑』を読みました。

うゆゆ…イチゴ食べたい。
62   2018/07/27(金) 07:15:28.46
ー図書室ー


カラリ


ルビィ スタスタ…

ルビィ キョロキョロ

ルビィ「うーん…」

??「なにか捜してるの?」

ルビィ「ピギャッ?!」ビクッ

ルビィ ビュン!

??「あ…図書室では走っちゃだめずら」

ルビィ ササッ コソ…

??「もしかして、驚かせちゃった? ごめんね」

ルビィ「…だれ」コソ

国木田「おらは国木田。図書委員だよ」

ルビィ「と、しょ…委員さん…」

国木田「うん」

ルビィ「図書委員さんなんていたんだ…」

国木田「そりゃいるよ。図書室があるんだもん」

ルビィ「だって、今まで会ったことないもん…」

国木田「あなた、よく図書室に来るの?」

ルビィ「…最近は毎日」

国木田「あ〜。ってことは、やっぱりみんなさぼってるんだ」

ルビィ「…」モジ
63   2018/07/27(金) 07:23:35.74
国木田「ほんとは交代ばんこで毎日図書委員が来ることになってるんだよ。でも、図書室の利用者なんかいないからって、みんなさぼっちゃうみたいなの」

ルビィ「…そうなんですか」

国木田「うん。…なんでそんなずっと隠れてるずら?」

ルビィ「…」モジ

国木田「図書室に来てくれる人がいて、おら嬉しいな。ね、一緒に本読もうよ」

ルビィ「…うん」ソロソロ…

国木田「お名前は?」

ルビィ「…黒澤ルビィです」

国木田「ルビィちゃん! きらきらした名前ずら〜」

国木田「ルビィちゃんは明日も図書室に来る?」

ルビィ「たぶん」

国木田「じゃあ、明日からおらも来ようっと!」

ルビィ「交代ばんこじゃないんですか?」

国木田「どうせみんな来たがらないから、おらが代わるって言ったら喜んで譲ってくれるに決まってるずら」

国木田「ね、明日からも一緒に本読もうよ!」

ルビィ「う、うん…」

国木田「よろしくね、ルビィちゃん!」
64   2018/07/27(金) 07:24:07.78
そうして知り合った国木田さん。

言葉通り、次の日も図書室に行くと国木田さんが待っていました。

その次の日も、その次の日も。

やがてルビィは放課後になると毎日図書室へ行くようになって、国木田さん――花丸ちゃんと本を読むのが日課になりました。
65   2018/07/27(金) 07:25:23.16
ルビィ「はなまるちゃん、今日はなに読むの?」

花丸『エルマーの冒険』サッ

花丸「これ!」

ルビィ「ぶあつい…」

花丸「そんなことないよ。読み始めたら面白くて夢中になっちゃって、このくらいあっという間ずら!」

ルビィ「はなまるちゃん、これまでにどのくらい本読んだの?」

花丸「わかんないなあ。でもばあちゃんが持ってるのは全部読んじゃったから、千冊くらいなのかな」

ルビィ「せんさつ!!」

花丸「一日一冊読んだら三年で千冊だもんね。もっと多いか」アハハ

ルビィ「ごめんちょっと笑いどころがわからないかも」


どれだけ早く帰っても、お姉ちゃんが帰ってくるのは遅い。

それなら、花丸ちゃんと本を読んでから帰っても変わらない。

それに、万が一お姉ちゃんのほうが早くても。


――ダイヤ『よかった…』ヘナ


ルビィ「…♡」

***
66   2018/07/27(金) 07:26:56.89
***

ダイヤ「ルビィ、最近なんだか楽しそうね」


ふと、お姉ちゃんがそんなことを言った。


ルビィ「えっ。そうかな?」

ダイヤ「ええ。学校に行くのも嫌じゃなさそう」


なんだろう。

自分ではそんなつもりなかったけれど、…でも。


ダイヤ「お友達でもできた?」


お姉ちゃんの言葉に、はっとする。


――花丸『ルビィちゃん!』


ルビィ「あ、そっか…」

ダイヤ「ん?」

ルビィ「そう、お友達ができたんだよ」

ダイヤ「あら! なんて子なの?」

ルビィ「はなまるちゃん!」
67   2018/07/27(金) 07:27:45.48
学校に行くのが楽しい。

そうかもしれない。

クラスが違うからお昼の間は一緒にいることはないけれど、放課後に花丸ちゃんと本を読む時間は好き。

花丸ちゃんはしっかりしてるけどのんびり屋さんだから、どんくさいルビィでも無理せずお話しできる。

うふふ…

やっと、ちゃんと「お友達」って呼べる相手ができたんだ。

嬉しいな――


ダイヤ「花丸さん。可愛らしいお名前ね」

ルビィ「――――――は?」


思考がぴたりと止まる。

今、お姉ちゃん、なんて…?
68   2018/07/27(金) 07:28:44.74
ダイヤ「そのうちお家に連れていらっしゃいな。ご挨拶を、」

ルビィ「つれてこないよ」

ダイヤ「…ルビィ?」

ルビィ「はなまるちゃんなんか、つれてこないもん」

ダイヤ「ルビィ。せっかくのお友達になんてことを言うの。『なんか』なんて言いかたしちゃ失礼でしょう」

ルビィ「はなまるちゃんなんか可愛くないもん」

ダイヤ「可愛く…? とにかく、お友達の悪口はいけません!」

ルビィ キッ

ダイヤ「?!」ビクッ


――ダイヤ『花丸さん。可愛らしいお名前ね』


ルビィ「はなまるちゃんは、可愛くなんかない」


――ダイヤ『誰よりもあなたのことが好きよ。ルビィ』


ルビィ「お姉ちゃんには絶対会わせないから」

ダイヤ「な、えっ、ちょっとルビィ…」

ルビィ タタタタタッ バタン!

ダイヤ「ルビィ?! お待ちなさい、ルビィ!」

………………

………
69   2018/07/27(金) 07:29:52.75
ールビィの部屋ー


ルビィ「 」 ←布団に潜ってる


うう…やってしまった。

お姉ちゃんにあんな言いかたするつもりも、花丸ちゃんのことを悪く言うつもりもなかったのに。

なんだかついかっとなってしまって、抑えられなかった。

後でお姉ちゃんに謝らなきゃ…明日花丸ちゃんにも謝らなきゃ…でも謝ってもなんのことか伝わらないよね…

やっと、無理せず付き合えるお友達ができたのに。

大切なお友達なのに。

お姉ちゃんにも紹介したいし、お家に遊びにもきてほしい。

絶対に会わせないなんて、そんなの本気じゃ――


――ダイヤ『花丸さん。可愛らしいお名前ね』


お姉ちゃんはそう思ったからそう言っただけ。

なんの意味もない言葉だって、わかってるけれど…

…でも……


ルビィ「うう〜………ううう…………」

***
70   2018/07/27(金) 07:32:15.72
***

ー次の日、放課後ー


『スクールアイドルの歴史』


ルビィ「 」モクモク…


ガラリ


ルビィ「!」

花丸「あ。ルビィちゃんもう来てたずら〜」トコトコ

花丸「早かったね」


――ルビィ『はなまるちゃんは、可愛くなんかない』


ルビィ「う、うん…」

花丸「? …またその本読んでるんだね。好きだね、それ」

ルビィ「え。あ、うん。ルビィ、スクールアイドル好きだから…」

花丸「そうなんだね〜」

花丸「ところで、すくーるあいどるって、なんずら?」

ルビィ「えっ?!」バッ

花丸「えっ?!」ビクッ

ルビィ「はなまるちゃん、スクールアイドル知らないの?!」

花丸「う、うん…あの、図書室では静かに…」

ルビィ「ルビィたち以外誰もいないから今は平気だよ!!」

花丸「うん、平気かもしれないけど、だとしてもそれを言っていいのは図書委員だけだと思うよ」
71   2018/07/27(金) 07:33:22.22
ルビィ「スクールアイドルっていうのはね、高校生アイドルのことなんだよ! ほらこれ!」ササッ

花丸「高校生アイドル…」ジッ


『始まりのスクールアイドル A-RISE(UTX)』

『スクールアイドルが国内500組を突破』

『国立音ノ木坂学園 スクールアイドル μ'sに密着!』


ルビィ「スクールアイドルは学校の名前を背負って活動するんだよ! だからね、素人とはいっても覚悟が必要だし、どのグループも本気でやるからとっても輝いてるの!」

花丸「へえ〜」シゲシゲ

花丸「これはなんて読むの?」

ルビィ「アライズだよ」

花丸「こっちは?」

ルビィ「ミューズ!」

花丸「みんな都会的で未来的なんだねえ」

花丸「東京にはこんなのがあるんずらか〜」ホエー

ルビィ「うふふ…内浦にもいるんだよ、スクールアイドル」

花丸「え? そうなの?!」

ルビィ「うん。山の上の浦の星女学院にね。グループ名はまだ決めてないって言ってたけど」

花丸「ってことは結成したばっかりずら? よく知ってるね」

ルビィ「えへへ…だって、ルビィのおねいちゃんのグループなんだもん!」
72   2018/07/27(金) 07:34:41.37
花丸「お姉ちゃん? ルビィちゃん、お姉さんがいるの?」

ルビィ「いるよ。とっても綺麗で頭も良くって優しいの!」

花丸「はーっ…それは確かにアイドルさんに向いてる感じがするね」

ルビィ「うん! そのうちはなまるちゃんも会いに…」


――ルビィ『お姉ちゃんには絶対会わせないから』


ルビィ「…っ」グッ…

花丸「ルビィちゃん?」

花丸「…」ジッ

花丸「あ!」

ルビィ「うゆ?」

花丸「ルビィちゃんのお姉さんって、ダイヤさんか!」

ルビィ「えっ。はなまるちゃん、おねいちゃんのこと知ってるの?」

花丸「そりゃそうだよ。内浦に住んでて黒澤家のダイヤさんを知らない子なんかいないずら。あ〜、苗字ですぐに気付けたよね…恥ずかしいなあ」

ルビィ(そっか、お姉ちゃん町内の行事とかに顔出すから…)

花丸「そう言われてみると、確かに似てるもんね」

ルビィ「えっ? ルビィとおねいちゃんが?!」キラ

花丸「へ? う、うん…髪の印象もそうだけど、目元とか顔立ちが…」

ルビィ「え〜…やだあ…」// テレテレ

花丸(ええええ…こんな嬉しそうなことあるの…)

花丸(姉妹で似てるのってそんなに嬉しいことなんだ…)

花丸「姉妹揃って美人さんなんて羨ましいね」

ルビィ「ええ? ルビィはそんなことないよ!」アセアセ ブンブン

花丸(確かに美人というよりは可愛いほうかも) クス
73   2018/07/27(金) 07:36:19.91
花丸「それにしても、ダイヤさんなら、とっても人気が出そうだね」

ルビィ「…! 人気が…?」

花丸「うん。だって美人だし、きっとファンなんかもたくさんできるずら!」

ルビィ「…」


――ファン『ダイヤさん! いつも応援してます!』キャー

――ダイヤ『ありがとうございます。皆さんの応援がわたくしの一番の力ですわ』ニコッ


ルビィ「……っ」ギリ…

花丸「おら、アイドルなんて全然わかんないけど…ダイヤさんだったら見てみたいな〜。きっとすぐにトリコになっちゃう」

ルビィ「!」


――ダイヤ『花丸さん。可愛らしいお名前ね』


ルビィ「…だめ」ボソ

花丸「え? なんずら?」

ルビィ「おねいちゃんの応援はしないで」

花丸「え? な…なんで?」

ルビィ キッ

ルビィ「はなまるちゃんはおねいちゃんの応援はしないで!!」

花丸 ビクッ

ルビィ「おねいちゃんは…おねいちゃんはルビィだけの…」ブツブツ

花丸「ど…どうしたの、ルビィちゃん…」

ルビィ ハッ

花丸「…っ」ビク…

ルビィ「あ、あの、ごめん、ルビィ…」オロ

ルビィ「ごめんね! 今日は帰るっ!」バッ

花丸「あっ、ルビィちゃん!」


ガラッ タタタタ…

………………

………
74   2018/07/27(金) 07:37:21.59
ルビィ「はっ、はっ、はっ、はっ」タタタ…


――果南『うん! ダイヤの書いた歌詞はいいね。こりゃ私たちのグループの代表曲になるよ』


ルビィ「……っ、はあっ…はあっ…」タタタ…


――鞠莉『ンー、一番ダンス映えするのはやっぱりダイヤねー。線も細いし女性らしいし… leader はダイヤに決まりね!』


ルビィ「はあ…っ、はあ……っ、はあ………っ」タタ… ピタッ


――花丸『ダイヤさんなら、とっても人気が出そうだね。きっとすぐトリコになっちゃう』


ルビィ「………っ、………………」ゼエ…ゼエ…


――にこ『アイドルに色恋なんて厳禁! だって、アイドルの恋人はファンのみんななんですもの』

――ツバサ『みんな! 今日も最後までついてきてくれてありがとう! 愛してるわ!』

――穂乃果『私、自分のこととか将来のこととか全然考えてなくって。だって今、目の前のアイドルで精一杯なんです。考えてないっていうか、だから、考えられないっていうほうが正しいのかも』

――海未『みんなのハート、撃ち抜くぞ〜っ♡』


ルビィ「うう…」ゼエゼエ…… …ギリリ
75   2018/07/27(金) 07:38:11.56
お姉ちゃんがスクールアイドルを始めたことは、嬉しい。

ずっと一緒に憧れてきたことだから。

ここからお姉ちゃんの物語が、そしてあと二年もすれば私も一緒に二人の物語が始まっていく。

ずっとずっと楽しみにしてきたことで。

だけれど。


ルビィ「おねいちゃんが…遠く、なっちゃう…」


ファンなら誰でも知ってること――アイドルはみんなのもの。

それはつまり、お姉ちゃんがルビィだけのお姉ちゃんではなくなるということ。
76   2018/07/27(金) 07:39:18.04
気付いていなかったんだ。

スクールアイドル黒澤ダイヤの始まりが、ルビィとお姉ちゃんの絆の終わりだってことに。

そんなことにも気付かないで、憧れて楽しみにして――ばかみたい。

お姉ちゃんがルビィだけのものでなくなるのなら、そうしてまで誰がスクールアイドルなんかやりたいものか。

いらないいらない。

お姉ちゃん以上に大切なものなんか、ルビィには、ない。


ルビィ「…」

ルビィ「…っはあ……」ユラ…

ルビィ「…帰ったらおねいちゃんに言お」トコ…トコ…


きっと同じ気持ちのはずなんだから、お姉ちゃんもルビィが言い出すのを待ってくれてるはずなんだ。

みんなの手前、一度決めたことを取り下げるなんて、黒澤ダイヤにできるはずがないから。

帰ったらルビィがちゃんと言うんだ。

スクールアイドルを、辞めて。

ってね。

………………

………
77   2018/07/27(金) 07:39:59.47
『ダイヤの部屋』


ルビィ「…」フウ


コンコン


ダイヤ「はい、います。手が放せませんので、入っていただいて構いませんわ」


ガラリ


ルビィ「おねいちゃあ」

ダイヤ「あら、ルビィだったの?」カリカリ

ルビィ「うん」

ダイヤ「ノックなんかするから、てっきりお母さまだと思ったわ。お入りなさいな」カリカリ

ルビィ「うん」
78   2018/07/27(金) 07:41:06.33
部屋に入ると、お姉ちゃんは机に向かっていた。

手を放せないとの言葉通り、なにか一生懸命にペンを走らせている。


ルビィ「なにやってるの?」


片耳だけイヤホン。


ダイヤ「曲の歌詞をね、メモしてるのよ」カリカリ

ルビィ「そっか。じゃあ待ってる」テテテ… ポフ


ベッドに座って、そんな後ろ姿を眺める。

やがてペンが止まり、お姉ちゃんがふーっと大きく息を吐く。


ルビィ「終わった?」

ダイヤ「ええ、お待たせ。終わったわ」

ルビィ「見てもいー?」

ダイヤ「いいですわよ」ハイ


受け取った紙には、最近よく聞くスクールアイドルグループの名前と、確か再来週CDが発売になるという曲のタイトル、そして殴り書きにも近い字で綴られた歌詞らしき文章。


ルビィ「…」ジッ

ダイヤ「汚いから、あんまりまじまじ見られると恥ずかしいわ」

ルビィ「おねいちゃんの走り書きなんて滅多に見ないから、ルビィ結構好きだよ」クス

ダイヤ「も、もう! からかうのはおやめなさいな。そんな字、ルビィ以外には見せられませんわ」
79   2018/07/27(金) 07:42:10.33
ルビィ「ルビィにも片方ちょうだい」

ダイヤ「コンポに切り替える?」

ルビィ「ううん。イヤホンがいい」

ダイヤ「どうぞ」クス


イヤホンを受け取って、耳に。

予想の通り、スクールアイドルをメインに取り扱っているラジオが流れてくる。


ルビィ「こうやって一緒にラジオ聴くの、久し振りだね」

ダイヤ「そうね」


コンポを持っていなかった頃は、一つのイヤホンを分け合って聴いていた。

立体音響は半分しか入ってこないし、音の拾いも悪くなるけれど、こうやってラジオを聴くのは好きだった。

世界でたった一人だけ、お姉ちゃんと同じ時間を共有していることを実感できたから。


ラジオ『………………』

ダイヤ「…ふふ。………ああ、そうそう」ウンウン

ルビィ「…」グ…
80   2018/07/27(金) 07:44:01.60
ルビィ「ねえ、おねいちゃあ」

ダイヤ「うん、なあに?」

ルビィ「スクールアイドル…始めて、よかった?」

ダイヤ キョトン

ルビィ「どうなのかなって。ずっと憧れてきたことに、とうとう踏み出した気持ち」

ダイヤ「…うふふ」

ダイヤ「聞かなくたって、わかっているくせに」

ルビィ「…」

ダイヤ「始めてよかった」

ダイヤ「これからはスクラジもラブライブ!も他人事じゃない。μ'sもA-RISEもただ憧れるだけの相手じゃない。胸がね、どきどきして止まらないの」

ダイヤ「こんなの――最高以外のなんでもないわ」

ルビィ「……っ」

ルビィ「…そう、だよね」

ダイヤ「ええ。一つだけわがままを言うのなら、隣にあなたがいないことだけが不満だけれどね」

ダイヤ「でも、だからって待ちませんわよ。スクールアイドルがスクールアイドルでいられる時間は限られている。その中で精いっぱい輝こうとするからこそ、映し出せる光がある」

ダイヤ「早く高校生にならないと、お姉ちゃんルビィのことどんどん置いていっちゃうわよ――なんてね♪」クス

ルビィ「っ!!」

ルビィ「…」ギリ…


ルビィ「…あはは、困ったなあ。おねいちゃんに置いていかれちゃったら、ルビィ一人じゃ輝けないよぉ」

………………

………
81   2018/07/27(金) 07:44:38.19
ルビィ スッ

ダイヤ「あら。お部屋に戻るの?」

ルビィ「うん。宿題やらなくちゃいけないから」

ダイヤ「そう。わからないところがあったらおいでなさい」

ルビィ「ありがとう。おやすみなさい」

ダイヤ「ええ、お休みなさいな」

………………

………
82   2018/07/27(金) 07:45:47.60
布団に潜り込む。


ルビィ「………………ぅ」ジワ…


言えるわけ、ない…!!


あんな笑顔を浮かべるお姉ちゃんに向かって。

その夢をずっと追い掛けてきたお姉ちゃんに向かって。

よりにもよってわたしが。

誰よりも近くで一緒に夢を追い掛けてきたわたしが。

スクールアイドルを辞めてだなんて、言えるわけがない!

始めてよかったって。

最高だって。


ルビィ「わかってるよぉっ、そんなこと!!」


わかってるから苦しいんだ。

わたしだって心から応援したかった。

誰よりも大きな声で、誰よりもまっすぐに。

スクールアイドル黒澤ダイヤを応援したかったのに。
83   2018/07/27(金) 07:46:47.71
お姉ちゃんがスクールアイドルとして輝けば輝くほど、わたしとの距離はどんどん広がっていくんだ。


――ダイヤ『早く高校生にならないと、お姉ちゃんルビィのことどんどん置いていっちゃうわよ――なんてね♪』


笑い事じゃない…

それは、ルビィにとっては笑い事じゃないんだよ…お姉ちゃん。

学校も違う。

お稽古の時間も違う。

お姉ちゃんは練習もあるし、曲作りもある。

なんだっていい…お姉ちゃんと一緒にいられればなんだっていいのに、そんな時間が少しずつ削り取られていく。

そうやって少しずつルビィだけのお姉ちゃんじゃなくなっていって、いつか…いつか………


ルビィ「…っ、うわあああああああああああああああっっ!!!!」


いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。

そんなのいやだ。

お姉ちゃんと一緒にいたい。

ルビィだけのお姉ちゃんでいてほしい。

これ以上、少しだって離れたくない。

どうすれば……どうすれば…………


ルビィ「ううっ……おねいちゃあ…………おねいちゃあ、うう…」

***
84   2018/07/27(金) 07:47:51.42
***

ルビィ「おはよう、おかあさん」

黒澤母「おはようございます、ルビィさん。お休みなのに早いのですね」

ルビィ「うん、……」

黒澤母「…? どうかしましたか?」

ルビィ「うん。あのね、お話ししたいことがあるの」

………………

………
85   2018/07/27(金) 07:49:00.46
タタタ…


ダイヤ「ルビィ! ルビィ、いたら返事をなさい!」

ダイヤ スッ

『新着メッセージ なし』

ダイヤ「まったく、あの子ったら…」ハァハァ


タタタ…


ダイヤ「沼津のほうに行っていたら厄介ですわね…」

ダイヤ タタタ… ハッ

ダイヤ「あ、あの…すみません。ひ…人を捜しているのですが、」ハァ…ハァ…

ダイヤ「このくらいの背の、腰くらいまでの黒髪の女の子を…」ハァ…

ダイヤ「捜し、て………」

ダイヤ「………る、ルビィ…なの?」

ルビィ「うん。ごめんね、おねいちゃあ。心配かけて。おうち帰ろっか」

ダイヤ「あなた…その髪…」

………………

…………

……
86   2018/07/27(金) 07:49:54.08
――ダイヤ『おはようございます、お母さま』

――黒澤母 ハッ

――黒澤母『だ、ダイヤさん…』ヨロ…

――ダイヤ『お母さま?! どうかなさいましたか?!』タタッ

――黒澤母『ルビィさんを…ルビィさんを捜しにいってちょうだい…』

――ダイヤ『ルビィを…?! どういうことですか?!』

――黒澤母『今朝、随分早く起きてきたと思ったら、「話がある」と言って…』

――黒澤母『「黒澤家の娘を、やめます」――と』

――ダイヤ『……は?』

――黒澤母『心根を問うてもはっきり言わなくて、ただ、「時間が欲しいから」とだけ言って…飛び出していってしまったの…』

――黒澤母『突然のことで、追い掛けることもできなくて…ごめんなさい、不甲斐ない母で…ごめんなさい…』ウウ…

――ダイヤ『ご自身を責めるのはおやめください、お母さま!』

――ダイヤ『ルビィのことです、なにか考えが…あるいは悩みが…』

――ダイヤ『とにかく、わたくしはルビィを捜してきますわ。帰ってくるかもしれませんので、お母さまは家で待っていてください』

――黒澤母 コク…

――ダイヤ『あの子は……もう!』タタタタ…

………………

…………

……
87   2018/07/27(金) 07:50:49.48
ダイヤ「あなた…その髪…」

ルビィ「えへへー。切って、染めたんだよ」

ルビィ「似合う?」

ダイヤ「…………っ!!」


――黒澤母『「黒澤家の娘を、やめます」――と』


ダイヤ「ああ……る、ルビィ…なんで……」カタカタ


――果南『しばらく見ないうちに、またダイヤに似てきたねえ』


ルビィ「? どうしたの、おねいちゃあ」

ルビィ「連絡せずに出掛けてごめんね。帰ろ!」


そう言って笑うルビィの髪は、赤く――短く――揺れていた。

***
88   2018/07/27(金) 07:51:26.49
***

黒澤家の娘をやめます。

その言葉はどうでもよくって、ルビィが求めたことは一つだけ。

『黒澤家の娘だからしなければならないこと』からの解放――つまり。

………………

………
89   2018/07/27(金) 07:52:26.70
ユメーノト、ビ、ラー ズゥトサーガシーツーヅーケータ

キミトーボクートーノー ツナガリヲサ、ガ、シィテェター

〜♪


ルビィ「いえす! じぶんをーしんーじーてー みんなをーしんーじーて」

ルビィ「あしーたがーまあてるーんだよー いかなくちゃー」

ルビィ「いえす!」キャッキャ

ダイヤ チラ

ダイヤ「…」フウ

ルビィ「…おねいちゃあ? 歌わないの?」キョトン

ダイヤ「え? ああ、ごめんね…ぼーっとしちゃってたわ。お姉ちゃんも歌おうかしら」

ルビィ「うん!」

ルビィ「つかれーたとーきーにーぼくをーはげーまーすー きみのーえがーおーはさーいこー そ、し、てーすこしーずつーすーすむーんーだーねー」

ダイヤ「♪ときめきへの鍵はここにあるさ」

ダイヤ「♪ユメノトビラ 誰もが探してるよ 出会いの意味を 見つけたいと願ってる」ニコッ

ルビィ「ゆめーのとーびーらー ずうとさーがしーつーづーけーてー きみとーぼくーとーで たびだあたあーのーきーせーつー」ニコッ


〜♪


ダイヤ「…あ。ルビィったら、そろそろお稽古の時間よ…」

ルビィ ニコッ

ダイヤ「っ!」ハッ

ダイヤ「…ごめんね、お姉ちゃんの勘違いだったわ。なんでもありません」

ルビィ「ううん、いいよ! それより、ね。歌お」

ダイヤ「…ええ」

ルビィ「お稽古なくなったから、今までよりたくさんおねいちゃんと一緒にいられるね!」キャッキャ

ダイヤ「…そうね。お姉ちゃんも嬉しいわ」ニコ…

***
90   2018/07/27(金) 07:54:15.93
***

ガラリ


花丸「ルビィちゃん。こんにちは」

ルビィ「はなまるちゃん!」

花丸「今日はなに読んでるずら?」

ルビィ「これー!」

ルビィ『かわいそうな ぞう』サッ

花丸「懐かしいなー。おらもその本好きだよ」

ルビィ「ぞうさん可愛いな〜」ペラ

花丸「…」

花丸「ルビィちゃん、最近スクールアイドルの本あんまり読まないね」

ルビィ「んー…うん。もういいかなって」

花丸「もういい…?」

花丸「…そっか。おらはなに読もうかなー」

花丸(人の興味は刻々と移ろうもの。たいしたことじゃない)

花丸(だけど…)

ルビィ「〜♪」ペラ

花丸(…ルビィちゃんがスクールアイドルに対する興味をなくしたことだけは、なんだかすんなり呑み込めないな)

花丸「…」ハァ

花丸(余計なお世話、なんだよね…)

***
92   2018/07/27(金) 07:57:38.72
***

〜♪(アウトロ)


果南「…よーし。だいぶいい感じになってきたね」

鞠莉「あとは細かいとこ合わせるだけだね!」

ダイヤ「なんとか形になってよかったですわ…」フウ

果南「じゃ、今日はこんなもんにしよっか」

ダイまり「「は〜〜〜い」」ドサッ

果南「あはは。最近、体力トレが疎かだったかもね。練習メニューも少し見直そっか」

ダイヤ「それは賛成ですけれど…果南さんに全て任せるのはイヤですわよ…」

果南「へ? なんで?」

鞠莉「果南に合わせてメニュー作られたら内臓と血管まで筋肉になっちゃうもん…」

果南「えー? でもなあ、それじゃ私は物足りないんだよなー」

ダイヤ「わたくしたち三人のタスクとして定めないでほしいと言っているのです。果南さんは一人で勝手に二倍でも三倍でもお好きにやっていてください」

果南「もー、つれないんだから〜」ハグーッ

ダイヤ「いえほんとにつれないとかではなく」
93   2018/07/27(金) 07:58:40.65
鞠莉「あ。ねえ」

果南「ん?」

鞠莉「せっかく練習も余裕が出てきたんだし、久々に Ruby 呼びましょうよ!」

ダイヤ「え…」

果南「おっ、それいいね。結局あの一回っきり会ってないしね」

鞠莉「果南が怖いから来てくれないんじゃないのー?」

果南「そんなことないよーだ。だって私があげたアメまだ持ってくれてるって言ってたじゃん」

鞠莉「それは早急に捨てさせるべきだと思うのよねマリィ」

果南「ね、いいでしょダイヤ。都合つく日でいいからさ、またルビィ連れておいでよ」

ダイヤ「えっ、ええ…」

果南「…ダイヤ? どうかした?」

鞠莉「なにかまずいの?」

ダイヤ「…」

ダイヤ「…お二人には、お話ししておきたいと思いますわ…」

***
98   2018/07/27(金) 12:53:49.34
***

ルビィ「こんにちは。果南さん、鞠莉さん」ペコ

かなまり「「………………っ!」」

ダイヤ「…」

ダイヤ(お二人とも)

かなまり ハッ

果南「や。また何週間かあいちゃったね…久し振り」

鞠莉「ちゃ、チャオ。相変わらず very cute ね、ルビィ」

ダイヤ「今日は体力作りをメインにした基礎寄りのメニューだから、ルビィも参加できるところがあったらしてみなさい。きっとよい練習になるわ」

ルビィ「うん。ルビィ体力ないからみんなの足引っ張っちゃうかもしれないけど…」

果南「二年も違うんだから当たり前だって。焦らないで、無理しない範囲でついておいでよ」

ルビィ「ありがとうございます。果南さん」

果南 ニッ

果南(態度は前と変わったように見えない…普通だ。…けど、)


ルビィ ソヨ…


果南(ここまで外見が変わるとやっぱり結構驚くな…)

鞠莉「…」

………………

………
99   2018/07/27(金) 12:55:53.30
果南「腹筋200回! いくよ!」

ダイヤ「はい! …え?」

鞠莉「okay! …え?」

ルビィ「2回の間違いですか?」


果南「残り300秒!」

ダイヤ「は…はぃい…」ググ…

鞠莉「woo…」グヌ…

ルビィ「 」コヒュー…コヒュー… ← warning…warning…


果南「ダイヤあと六往復! 鞠莉は十一往復だよ、ファイト!」

ダイヤ「かっ、果南さん…速すぎますわァ…」ヘロヘロ タッ…タッ…タッ…

鞠莉「………っ、…………っ、……………っ」白目 タッ……タッ………タッ…………

ルビィ「 」ピッ…ピッ…ピッ… ← dead-or-alive


果南「イチ、ニッ、サン、シッ ヨン、ゴー、ロク、ナナ!」パンパン

果南「二人とも動きにキレがないよー!」

ダイまり((これでまだ立ってられるだけマシだ…)) ユラユラ

ルビィ「 」…ピーーーーー ← !DEAD!

………………

………
100   2018/07/27(金) 12:56:25.96
果南「オッケー! 午前はここまでにしよっか」

ダイヤ「 」← !DEAD!

鞠莉「 」← !DEAD!

ルビィ「 」← !DEAD!

果南「うーん…体力不足が深刻だな〜」

ダイまり「「どう考えても練習量がおかしい!!!」」クワッ

果南「なんだ、元気じゃん二人とも」アハハ

………………

………
101   2018/07/27(金) 12:58:10.47
果南「おーい、ルビィ。だいじょうぶ〜?」ノシ

ルビィ「………………ぅゅ…」パチ…

鞠莉「あっ! 目が! 目が開いたわ!」

ダイヤ「ルビィ…ああ、よかった…」ヨヨヨ…

果南「なんか大げさじゃない?」

ルビィ「うゆ…ルビィは…」

ダイヤ「練習の途中で力尽きたのよ。こんなになるまでよく頑張りましたわね」ナデ

ルビィ「…んん……ごめんね、やっぱりついていけなかった…」

ダイヤ「なにを言ってるの! あなたはまだ中学生なのだから、同じメニューを同じようにこなせるはずがありませんわ」

鞠莉「それにしてもすごいよ。元々メニューのほうがおかしいのに、あそこまで食らい付いてくるなんて!」

果南「ね。まさかダイヤと鞠莉もやり遂げると思ってなかったのに」

ダイヤ「そうよ。だから謝ることも恥ずかしいこともない…は?」

果南「ん?」

鞠莉「マリィたちもやり遂げると思ってなかったのに?」

果南「あ、やば」

ダイヤ「やっぱり無茶苦茶な内容だと自覚してらしたのですねーーーっ?!」

果南「淡島階段四十往復なんて、できると思わないよねー」アハハ

鞠莉「思わないよねーじゃ、アーーリマセーーン!! マリィもうちょっとで死ぬところだったのよ!」

果南「でもやり遂げたじゃん。見直したよ、鞠莉」

鞠莉「か、果南…んもうっ」// トゥンク…

ダイヤ「鞠莉さん?! チョロすぎやしませんか?!」


ワイワイ キャッキャ


ルビィ「…」

………………

………
102   2018/07/27(金) 12:59:36.12
かなまりダイルビ「「「「いただきまーす!」」」」

果南「お、やった小原家カラアゲだ! 私これ好きなんだよねー」ヒョイヒョイ

鞠莉「ちょっと果南! たくさん取っちゃイヤよ!」メッ

果南「えー。じゃあほら、カキあげるから」ヒョイ

鞠莉「ギャーーーッ!! この蒸し暑い時季になんてもの持ってきてるの! 死にたいの?!」

果南「だいじょうぶだよ、今朝獲れの新鮮なヤツだから」

鞠莉「保冷剤は?! 入れてきたのよね?!」

果南「海水に浸けてきたから冷えてると思うよ」チャプ

鞠莉「ぬるくなってるに決まってるでしょ!」ペシッ

果南「鞠莉は心配性だなー」モグ…

鞠莉「だーめ食べないで果南! stomachache 起こすわよ!」


ギャーギャー


ルビィ ポカン

ダイヤ「賑やかでしょう? いつもこんななんですのよ」クス

ダイヤ「それぞれのお弁当を広げて好きにつつき合うのがいつものスタイルだから、あなたも遠慮せずに果南さんたちのお弁当を貰いなさい」

ルビィ「う、うん…」

ダイヤ「と言っても果南さんはあんなですから、だいたい鞠莉さんとわたくしのお弁当がよく狙われるけれどね。食べたいものは早く確保しておかないとなくなってしまうわ」

ルビィ「わ、わかった…あ。タコさんだ」ヒョイ

ダイヤ「ふふ…さて、わたくしも」
103   2018/07/27(金) 13:01:03.29
ダイヤ ヒョイヒョイヒョイヒョイ

果南「私今まであたったことなんかないから平気…ってあー! ちょっと鞠莉ダイヤが! ダイヤが! たまごたまご!」

鞠莉「果南の基準で人間の身体を考えないでちょうだい…ってなによ………あー! ダイヤいくつ取ってるの?!」

ダイヤ「わたくしとルビィの分です」ヒョイヒョイ

鞠莉「それにしたって取りすぎよ! マリィも好きなのに!」

ダイヤ「果南さんのほうにも入ってますわよ、卵焼きなら」

鞠莉「果南の卵焼き海水ぶち込んでんじゃないかってくらい塩っぽいんだもの!」

果南「ちょっと。…え、うそ…そうなの?」モグ…

果南「…普通でしょ」

ダイヤ「果南さんは唾液が海水ですから、塩分の感じかたが人とは違うんですのよ」

果南「私、海難法師かなんかなの?」

鞠莉「海難法師より変よ」

ダイヤ「海難法師のほうが普通です」

果南「ちょっと! いくらなんでも!」

ダイヤ「果南さん。わたくし新鮮なナマコが食べたいのですが」

果南「え? ナマコはさすがに入れてないなー。この時季だしなー…」ウーン

果南「ま、北のほうまで行けばいるかな。ちょっと待ってて」

鞠莉「行かなくていいわよ! 高校生の発想じゃないでしょ!」

ダイヤ「やはり海難法師のほうがまだいくらか普通ですわね」モグモグ

果南「なんなのさこの仕打ちは」


ルビィ「ふふっ」モグ

ルビィ「…っ!」ハッ

ルビィ「…」モヤ…

………………

………
104   2018/07/27(金) 13:02:04.81
果南「さ、そろそろ再開しよっか」ノビー

鞠莉「ンーーー…」ノビー

鞠莉「やだあ…」ズゥン

ダイヤ「この時間が来てしまいましたか…」ハァ…

果南「はっはっはっは。そんなこと言っても練習量は減らないよー」

ダイヤ「誰ですかこの人を練習リーダーにしたのは」

鞠莉「私とダイヤだよ」

果南「ルビィ。私たち練習するけど、どうする?」

ルビィ「えっと…」

ダイヤ「無理はしない約束ですわ。午前の練習だけでも相当な量だったのだから、午後は休んでいなさいな」

果南「そうだね。浦の星に来たら、同じだけやろうね」

ルビィ「ぴっ…」ビク

ダイヤ「安心なさい、それまでには鬼退治を済ませておきますから」

果南「誰が鬼だよ」

ダイヤ「午後はダンスと歌のほうを多めにやるから、余裕があったらまたラジカセを手伝ったりしてくれればいいわ」

ルビィ「うん、わかった」

鞠莉「…」

果南「よし。じゃ始めよっか」

ダイヤ「はい」

鞠莉「…うん!」

………………

………
109   2018/07/27(金) 19:41:05.66
お姉ちゃんたちの歌を聴いて、ダンスを眺めて、たまにラジカセを操作して。

言われた通りそうしているうちに、午後の練習はゆっくりと過ぎていきました。

疲れと、ぽかぽかした天気と、お姉ちゃんの歌声と…しだいに音も光も遠くなっていって、気が付いたらルビィは――


『うーん…ここイマイチかもね。ごめんルビィ、サビ前に戻して…って、ありゃ』

『どうかした? …wao.』

『あの子ってば。せっかくご一緒させてもらってるのに…』

『いいよいいよ、ダイヤ。疲れちゃったんでしょ。ゆっくりさせといてあげよ』

『そうですか? ありがとうございます』

『じゃ、いつもみたいに私ラジカセやるからさ。二人は、』

『ねえ』

『ん? どした、鞠莉』

『ルビィのこと。…今のうちに、少しだけ話をしてもいい?』

『ルビィのこと…ですか? 構いませんが…その、やはり練習にご一緒するのはご迷惑でしたか?』

『ウウン、そういうことじゃなくって…ルビィの変化のことよ』

『!』

『果南だって、なにも思わなかったわけじゃないでしょ』

『…そりゃ、まあね』
110   2018/07/27(金) 19:43:01.83
『ダイヤ。あなた、この前私たちに言ったわね。「ルビィは心境の変化があったようですわ。雰囲気が少し変わりましたけれど、果南さんたちは変わらず接してくださると嬉しいです」って』

『…ええ』

『少し、かしらね。あれ』

『…』

『正直、この前そんな言いかたをされた時点で、私にはかなり不審だったよ。それでいざ蓋を開けてみたらあんなことになってる。ダイヤ…あなたルビィのなにを見てたの? 妹ってこんなにもぞんざいに扱っていいものなわけ?』

『鞠莉。言葉』

『…だって、そうじゃない。私はルビィとすっごく親しいわけじゃないけど、それでも変だってわかるもの! 果南なんかもっとよくわかるでしょ!』

『………まあね。よそのことに口出ししすぎるのはよくないってわかってるけどさ、ダイヤ、ルビィのあれはやっぱりいくらなんでも変わりすぎだよ。しかもよりによって…髪でしょ。どうしたのさ』

『…わかりませんの』

『わかりませんで済ませていいこと? 髪よ? 女の子があんなに長かった髪をばっさり切り落として、しかもあんな色に染めたのよ? 私がそうしたらどう? 果南だったら? 同じように、ダイヤなんにも気にせず黙ってるわけ?』

『…っ』

『…それだけじゃないんだ』

『それだけじゃない?』

『これが髪じゃなくて、例えば私服の系統ががらっと変わったんだとか、びっくりするほど積極的な性格に変わったとか、そういうことなら私だってここまで言うつもりはなかったよ』
111   2018/07/27(金) 19:46:02.02
『…どういうことなの?』

『ルビィが髪をいじるのは、普通の女子がそうするのとは一つも二つも意味が違う――重みが違うんだよ。ねえ、ダイヤ。知らないわけないよね? 気付いてないわけないよね?』

『…』

『ルビィが、ダイヤの真似をして…ダイヤみたいになりたくて、黒髪のロングストレートを保ってきたってこと』

『………そんな…』

『…』

『小学校にも上がる前だっけ、私がルビィに初めて会ったの。それから何十回もルビィに会ってきたけど、一回だって見たことなかったよ。あの子が髪を結んでるの。
私も髪留めとかゴムとかあげたことあるけどさ、「ありがとう」って嬉しそうに言ってはくれるけど、それ使ってたこと一回もない。地味に傷付いてたから、はっきり覚えてるよ。それくらい、ルビィにとってあの黒くて長くてまっすぐ伸ばした髪は大切なものだったはずでしょ。
それが……なんであんなことになるのさ。それを、なんで理由もろくに聞かないで放ったらかしにしてるのさ! ねえ、ダイヤ!!』

『……っ』

『ダイヤ…どうしてなの? あなたらしくないわ。ルビィが困ってたら、不安だったら、なにもかもを放り出してだって駆け付ける…あなたはそうだったはずでしょ』

『そうだよ。ルビィのこの変化に理由があって、それをダイヤも納得してるんだったら、私はなにも言わないつもりだった。二人の選択だからね。でも、そうじゃないんなら…』

『ダイヤ…もう、ルビィのこと…好きじゃなくなっちゃったの?』

『っ!! そ、そんなはずがないでしょう! わたくしはいつだってルビィのことが好きよ! 愛していますわ! この気持ちが変わることは、万に一つだって有り得ません!!」

「…っ、だったら…だったらさ! ちゃんと向き合いなよ、ルビィに! なにがあったのって、どうしたのって、ちゃんと訊きなよ!!」

「そうよ! 向き合うこともしないで、ルビィ自身からも逃げ出して、それで愛してるだなんて言えるの?!」

「………………っ、………」
112   2018/07/27(金) 19:48:18.48
「…ね、ダイヤ。どうしたの? 一人で整理つけらんないんならさ、私たちに話してよ。友達でしょ」

「ルビィが一人で抱え切れないものをダイヤが支えるように、ダイヤが一人で抱え切れないものは私たちが支えるの。支えたいのよ」

「…果南さん。鞠莉さん………ぅ、」

「おいで、ダイヤ。ハグしよ」

「………っ、うわあああああああんっ!」

「よしよし、よしよし…ダイヤは一人じゃないんだからさ」

「わああああ………うう、ぁぁぁぁん………………」

「大丈夫よ、ダイヤ。落ち着いてからで…ゆっくりでいいわ」

「ううっ……ぅ、ぐす………… ………………あのね、…こ、怖いのです」

「怖い? ルビィが?」

「いいえ…」

「じゃあ、なにが…?」

「…どうしたのと、髪を切った理由を訊いて……… …もうわたくしのことを好きでなくなったのだと言われるのではないかと思うと、それが……怖くて、怖くて………」

「「…………!!」」

「訊かなければと、そしてなにかがあったのなら力にならなければと思うのに、怖くて…怖くて、訊けずに今日まで来てしまいましたの………うう、不甲斐ない……不甲斐ない姉ですわ……」

「そんなことない、そんなことないよ…ダイヤ」

「そっか…そういうことだったのね。ごめんなさい、ダイヤの気持ちも考えずに、つらい言葉を投げてしまったわ…」

「よいのです…お二人はわたくしのことを、わたくしたちのことを想ってくださったのでしょう…」

「そうだけど、ごめん。ダイヤがルビィのことを考えてないわけないって、知ってたはずなのにさ。よく、今日まで一人で頑張ってきたね」

「うう…ぐす、はい…」
113   2018/07/27(金) 19:49:35.53
果南「そんじゃ、どうしよっか」

鞠莉「どうするって?」

果南「ルビィにほんとのとこ聞かないと、どうしようもないじゃんってことだよ」

ダイヤ「…」グッ

果南「大丈夫だよ、ダイヤ。ルビィがダイヤのこと嫌いになるなんて、絶対にないから」ギュ…

鞠莉「そうよ。こんなにも自分のことを大切にしてくれるお姉ちゃんを、同じだけ愛さずになんかいられないよ」

ダイヤ「ありがとうございます…」

果南「とは言っても、突然私たちが髪のこと突っ込んでくるのもイヤかなあ…」ウーン

鞠莉「そうね。ダイヤに相談できないほど delicate なことって可能性があるんだもの…」ウーン

ダイヤ「…やはり、切り出すのはわたくしからしか有り得ませんわね」

鞠莉「ヘーキなの?」

ダイヤ「はい。怖さはありますが、これも姉の務め…それにこうして支えてくださるお二人がいるのですから」ニッ

果南「うん! じゃ、今のうちに私のハグでパワー充電だ〜っ」ギューッ

ダイヤ「もう、果南さんってば……ぃっ…いたたたただだだだだ痛い痛い痛い痛いですわ!」バシバシ

鞠莉「果南! ダイヤが死んじゃう!」

果南「あ、やりすぎた」テヘ

ルビィ「…………るの」ボソ

鞠莉「ん? あ、ルビィ」

ダイヤ「ルビィ…騒がしくして、起こしてしまったのね」

果南「ルビィもこっちにおいでよ、果南ちゃんが愛情たっぷりのハグを――」


ルビィ「なにしてるの」

………………

…………

……
114   2018/07/27(金) 19:50:29.63
うつら、うつら。

寝ちゃ、いけないのにな…

ルビィのわがままで練習についてきて、しかも一人だけバテちゃって。

せめてサポートくらいはしっかりやらなくちゃって思うのに。

そよそよと風が吹いてきて、おひさまが優しい陽射しを落とす。

あったかい毛布にくるまれて、誰かのおひざの上で頭を撫でられているようなその感覚に、ゆっくりと意識はまどろみの中に溶けていきます…
115   2018/07/27(金) 19:51:23.35
ふと、誰かのおっきな声が聞こえた気がしました。

何度かそれが繰り返されて、ふわふわした夢の中をさまようルビィの耳にはっきりと聞こえたのは、


――『わたくしはいつだってルビィのことが好きよ! 愛していますわ! この気持ちが変わることは、万に一つだって有り得ません!!』


誰かのそんな声。

ああ、おっきな声を出すなんて珍しいな。

でも、なんだかとっても嬉しいことを言われた気持ち。

ルビィも…ルビィも愛してるよ、お姉ちゃん…

それから続く誰かと誰かと誰かの会話をぼんやりと聞いていました。
116   2018/07/27(金) 19:54:03.28
やがて、少しずつ意識がはっきりしてきて。

お姉ちゃんと、果南さんと、鞠莉さんの声。

ああ…そっか、ルビィ、お姉ちゃんたちの練習についてきてて…

いつの間にか寝ちゃってたんだ…

だめだめ、起きないとね。

起きて、お姉ちゃんに言わなくっちゃ。

ルビィも愛してるよ――って。

えっと、でも、なんでだっけ? …ま、いっか。

あくびを一つ。

目をひらいて、大好きなお姉ちゃんの姿が――


――果南さんに抱き締められた、お姉ちゃんの…姿、が………?
117   2018/07/27(金) 19:54:40.54
なに…

どういうことなの…

なにして…

ルビィが寝ちゃってた間に、さあ…


ルビィ「…………るの」


果南さんたち、さあ……

お姉ちゃんに、さあ………


ルビィ「なにしてるの」


そこで、私の意識はもう一度、今度はぷっつりと、途切れました。

***
118   2018/07/27(金) 19:57:40.35
***

ダイヤ「それでは、行ってきます」

ルビィ「いってきまーす」

黒澤母「はい、行ってらっしゃい」


ガラガラ… パタン


黒澤母「…」チラッ


『6:50』

………………

………
119   2018/07/27(金) 19:58:22.37
ルビィ「みてー! 凛ちゃんかいたの」

ダイヤ「まあ、上手…ではなくって。教科書に落書きしてはだめでしょう」メッ

ルビィ「だって授業中なにかしてないと眠くなっちゃうもん」

ダイヤ「まじめに先生のお話を聞きなさい…」

ルビィ「おねいちゃんは授業中なにしてるの?」

ダイヤ「先生のお話を聞いてるに決まってるでしょう」

ルビィ「お友達とお喋りしたりしないの?」

ダイヤ「しません。…ああでもたまに鞠莉さんがちょっかいを……」ハッ

ルビィ「…ふうん。鞠莉さんがね…」

ダイヤ「…っ」

………………

………
120   2018/07/27(金) 19:59:36.25
ー浦の星校門前ー


ルビィ「じゃあ、ここまで」

ダイヤ「ええ。気を付けて行くのよ」

ルビィ「うん!」

ダイヤ「…その、ルビィ。なにも毎日送ってくれなくても」

ルビィ ニコニコ

ダイヤ「…っ」

ダイヤ「…ううん、なんでもないわ」

ルビィ「じゃあ、いってくるね!」

ダイヤ「ええ…行ってらっしゃいな」


トコトコトコ…


『7:35』

***
121   2018/07/27(金) 20:00:25.51
***

ダイヤ カリカリ…

ダイヤ チラッ


『00:25』


ダイヤ「ルビィ。お姉ちゃん、まだしばらくお勉強終わりそうにないから先に、」

ルビィ「うん。先に歯磨きしてくるね!」テテテ…

ダイヤ「…っ」

………………

………
122   2018/07/27(金) 20:00:53.10
ルビィ「んゅ…」パチ…

ダイヤ スースー

ルビィ「んぇへへへ…」モゾ… スリ

ルビィ スピー

***
123   2018/07/27(金) 20:01:49.05
***

友達「黒澤さんまたねー」ノシ

ダイヤ「ごきげんよう」

先生「あ、黒澤さん…ちょっとだけ手伝ってほしいことがあるんだけど」

ダイヤ「はい、わかりました…が、少しだけお待ちいただけますか?」

先生「? うん、職員室で待ってますね」スタスタ

ダイヤ『先生からお願い事をされたから、いつもより遅くなるわ。帰る時刻がわかったらまた連絡するわね』スマスマ

ダイヤ「…よし、職員室に」





ルビィ『ルビィ終わったから、学校までおむかえにいくね』

ダイヤ「…っ」

ダイヤ『そう? ありがとう、気を付けて来るのよ』スマスマ

***
124   2018/07/27(金) 20:02:49.17
***

ガラ


花丸「ルビィちゃーん」


シン…


花丸「…やっぱりいないんだ」

花丸 トコトコ

花丸 ウーン…

花丸 ヒョイ

花丸『胡蝶の夢』

花丸 ペラ…

花丸「 」モクモク…

花丸「 」モクモク…

花丸「 」モクモク…

花丸「…ふう」パタ

花丸「そっか」

花丸「図書室って静かな場所で、読書って一人ですることだったな」

花丸「おら…忘れちゃってたよ…」

花丸「 」ペラ…

***
126   2018/07/27(金) 20:03:29.99
***

黒澤母「あら…お醤油を切らしていましたね」

ダイヤ「でしたら、わたくしが買ってきましょうか?」トコ…

黒澤母「よいのですか?」

ダイヤ「ええ。ちょうどポストに行こうと思っていたところですので」

黒澤母「…」チラッ

ダイヤ「…大丈夫です、すぐに戻りますわ」サッ

黒澤母「それでは、お願いしますね…」ソワソワ

ダイヤ「はい。行ってきます」タタタ…

………………

………
127   2018/07/27(金) 20:04:09.14
ガタ… パタパタパタ…


黒澤母「っ!」ビクッ


オネーチャー…


黒澤母「ぁ…だ、ダイヤさん…」


オネーチャー… ………
128   2018/07/27(金) 20:05:22.39
ダダダダダダダダッッ


ルビィ「おねいちゃあ!!」

黒澤母「っ!」ビクッ

ルビィ「おかあさん! おねいちゃんが…おねいちゃんがいない!」ハァハァ

黒澤母「だ、ダイヤさんは私のお願いでお醤油を買いに」

ルビィ「…うそ」

ルビィ「ルビィを置いて出かけちゃったの…」

黒澤母「あっ、いえ、私が無理やりにお願いをして、」

ルビィ「おねいちゃあ! うそ! ルビィ置いてっちゃったなんてイヤだ! うそだ! おねいちゃあ!」

黒澤母「あああ……ああ…」カタカタ…

ルビィ「おかあさん! おねいちゃんは?! おねいちゃんはどこに行ったの?!」ガッ

黒澤母「きゃっ。お、おそらくオーモスまで…」ガタガタ

ルビィ バッ タタタ…


黒澤母「〜〜〜〜っ、………」ヘナ…

………………

………
129   2018/07/27(金) 20:07:39.20
ダイヤ タッタッタッタッタッタッ


ルビィ「はあっ…はあっ…」タタタタタタ…


ダイヤ タッタッタッタッタッタッ


ルビィ「はあっはあっ…はっはっ…」タタタタタタ…


ダイヤ「…!」ルビィ「…!」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)
130   2018/07/27(金) 20:08:20.03
ダイヤ「る、ルビィ!」

ルビィ タタタタタタ…

ダイヤ「ごめんね! 少しお醤油を買いにーー」ガサ


タタタ…


ペチン!


ダイヤ「…っ」フラ…


……ドテッ
131   2018/07/27(金) 20:09:39.57
ダイヤ「…?」ボーゼン

ルビィ「はあっ……はあっ……」

ダイヤ「る、ルビィ…」ジン…

ルビィ「なんで置いてったの」

ダイヤ「ご、ごめんなさい…お母さまにお醤油を…」

ダイヤ「…いえ。ハガキを、出したくて…」

ルビィ「一人で?」

ダイヤ「その、ルビィ眠ってたから…」

ルビィ「起こしてくれたらいいのに」

ダイヤ「そ、そうよね。次からそうするから、」

ルビィ「うそなんでしょ」

ダイヤ「え?」

ルビィ「果南さんと鞠莉さんと会ってたんだ」

ダイヤ「ち、ちがっ――」

ルビィ「だったらなんでルビィのこと置いてくの?! おかしいじゃん!」

ダイヤ「ご、ごめんなさい…」

ルビィ「もうやだあっ! やっぱりおねいちゃんはルビィよりあの人たちのほうが好きなんだ!」ワァァァァァッ

ダイヤ「そ…そんなことないわ! お姉ちゃんはあなたのことが一番好きよ! 本当よ!」ガバッ ギュッ

ルビィ「うっ……うう…やだよぉおねいちゃあ……ルビィのこと一人にしないでぇ……ずっとルビィのそばにいてよぉ……」

ダイヤ「ごめんね……ごめんね、ルビィ…淋しい想いをさせてごめんね………」ギュウッ…

ルビィ「うわあああ………うわあああああああん………」

ダイヤ「…………っ」ギュ…

………………

…………

……
132   2018/07/27(金) 20:13:16.44
ダイヤ『――解…散?』

果南 コク

ダイヤ『な、なぜですの?! やっと曲も三曲になったし、来月には東京のイベントも控えて…これからではありませんか!』

果南『…』

鞠莉『…』

ダイヤ『果南さん…鞠莉さん…』

果南『なぜって、言わなくたって…わかるでしょ』

ダイヤ『……っ』グ…

鞠莉『勘違いしないで、ダイヤ。私も果南もダイヤを責める気なんかないの…もちろん、ルビィのことも』

果南『そうだよ。ただ、きっと時期が悪かったんだ。まだ早かったんだよ』

ダイヤ『そ、んな…こと…』

ダイヤ『わたくしが、ルビィのことはわたくしがちゃんとどうにかしますから――』

果南『無理でしょ』

ダイヤ『っ!』

鞠莉『今日だって、この時間を作るのがどれだけ大変だったか…お母さまと二人で出掛けるように促すのだって、これから練習のたびに同じことを何回でも繰り返せるわけじゃないわ』

果南『ルビィはまだ中学生。ルビィには、まだダイヤが必要なんだ』

ダイヤ『そんな…そんな……』
133   2018/07/27(金) 20:14:26.57
果南『きっと、いつかルビィも受け入れてくれる日が来る。また三人で、もしくは四人で…かな。スクールアイドルができるよ』

ダイヤ『でもっ、スクールアイドルができる時間には限りがあって――』

鞠莉『ダイヤ!』

ダイヤ ハッ

鞠莉『はっきり言わないと、だめ? 果南に、私でもいいけど…それを言わせれば納得してくれるの?』

ダイヤ『…………いいえ、ごめんなさい。わがままを…言いましたわ…』

果南『…』

鞠莉『…』

ダイヤ『…』


そのとき、たった一言、お二人が…いや、三人が呑み込んだ言葉。


果南『…じゃあ、私は行くね。ダイヤも早くルビィのとこに行ってあげたほうがいいだろうし』

鞠莉『またね、ダイヤ。学校で』

ダイヤ『はい………お二人とも、』


私の夢に付き合ってくださって、


ダイヤ『……ありがとうございました』ペコ…

………………

…………

……
134   2018/07/27(金) 20:15:10.30
ルビィ「…」テクテク

ダイヤ「…」テクテク

ルビィ「…ごめんなさい」

ダイヤ「!」

ダイヤ「どうして謝るの?」

ルビィ「おねいちゃんのこと、たたいちゃった」

ダイヤ「…あんなの、叩かれたうちに入りませんわ」

ルビィ「それに、ひどいこともゆっちゃった」

ダイヤ「いいのよ。わたくしはお姉ちゃんなんだから。怒ったりしませんわ」

ルビィ「ルビィね、いけないってわかってるんだよ」

ルビィ「…ほんとだよ」
135   2018/07/27(金) 20:15:59.17
ルビィ「いつまでもおねいちゃんに甘えっぱなしじゃいけないってこと。

ルビィ「おねいちゃんにはおねいちゃんの人生があって、ルビィはいつか絶対に一人で歩いていかなきゃいけないんだってこと。

ルビィ「でも、ね…

ルビィ「やっぱりイヤなの…おねいちゃんと離ればなれになりたくないし、いつだって一緒にいたいって思う。

ルビィ「おねいちゃんと一緒の時間が減っていくたびに、不安になっちゃうの。

ルビィ「おねいちゃんがルビィから離れていっちゃうって、

ルビィ「ルビィだけのおねいちゃんじゃなくなっちゃうって。

ルビィ「そう思ったら、さみしくって、悲しくって、どうしようもなくなっちゃうの。

ルビィ「だから、ごめんなさい、わがままなのはわかってるけど…

ルビィ「まだ、ルビィだけのおねいちゃんでいてほしい――」
137   2018/07/27(金) 20:17:07.55
ダイヤ「…もちろんよ」


隣を歩く小さな頭を撫でる。

洗髪料とパーマで、わずかに硬さを帯びた髪。

変わらない頭の小ささ。


ダイヤ「言ったでしょう。わたくしはあなたのことが一番好きよ。その気持ちは、絶対に変わらないんだから」


俯いて、繋いだ手に弱く確かな力が込められる。

この小さな頭でどれだけのことを悩み、この小さな手をどれだけ必死に伸ばしていたのだろう。

この小さな足で、身体で、瞳で、肩で、口で、声で。

たとえ世界中の誰もが敵に回ったとしても、私だけは絶対にこの手を放さない。

だから、本当に…本当によかったと思っている。
138   2018/07/27(金) 20:18:33.80
あの日、絶望の鐘にも似た宣告を受けて、


――果南『解散、しよっか』


形になって見えそうなほどの想いを、果南さんが口にしないでいてくださって。

鞠莉さんが呑み込んでくださって。

そして誰より他でもない私自身が、


――『ルビィがいるから、私たちはスクールアイドルを辞める。』


残酷な音を吐き出してしまわなくて。


本当に、よかったと思っているのだ。

***
144   2018/07/28(土) 12:57:16.15
***

それから約二年半後…


コンコン ガチャ


「理事長、郵便が届いています」

鞠莉「thank you. 誰から?」

「ラブライブ!の主催団体からです」

鞠莉「wao.」


『浦の星女学院 理事長 小原 鞠莉 様』


「今回こそ、優勝できるといいですね」

鞠莉「そうね。みんな一生懸命頑張ってきたんですもの…努力と強い想いは報われるということを、きっと示してほしいわね」

「それでは、私は失礼いたします」ペコ


バタン


鞠莉「…これが、浦の星最後のラブライブ!なのね」

鞠莉「放課後が待ち遠しいわ」

………………

………
145   2018/07/28(土) 12:58:15.86
ー放課後ー

ダムダム キュッキュッ ワァワァ…


鞠莉「体育館はいつだって賑やかね。マリィも運動したいな〜」

「あ、理事長。こんにちは!」

「みんな! 理事長だよ! あいさつ!」

「「「こんにちは!」」」

鞠莉「hello. みんな元気かしら」ニコッ

「はい!」

鞠莉「いいわね、basket ball. 執務が落ち着いたら混ぜてほしいナ♪」

「ぜひ!」

「ところで、バスケ部にご用ですか?」

鞠莉「ううん、今日は違うのよ。奥の――そこの部に」


『スクールアイドル陪』
146   2018/07/28(土) 12:59:15.07
「あ…そうだ。予選、通ったんですよね!」

「わたし予選の動画ネットで観た! よかったな〜」

「確か本選って来月だよね?」

「ってことは…」

鞠莉「bingo. 本選の案内が来たから、スクールアイドル部のみんなに連絡に来たんだよ」

「「「おお〜っ!」」」

鞠莉「それじゃ、私は行くね。練習の横を失礼っと」ススス…

「「「お疲れさまでーす!」」」


鞠莉「ウチの生徒はみんな良いコたちね〜。やっぱり leader が良いからかしらね☆」ウンウン


…トコ


鞠莉「この部屋に来るのも久し振りね」
147   2018/07/28(土) 13:00:13.93
千歌「ここでチカと梨子ちゃんがばーって端っこに移動すればさ、」

梨子「待ってよ千歌ちゃん。そこほとんど音ないのよ? 間に合うの?」

善子「端まで行くならもともと外側にいる私と曜のほうがいいんじゃないの?」

曜「でも次のサビ前の動きを考えるとねー」

善子「そっか、クロスしなきゃいけないんだものね…う〜ん…」


ガラッ


鞠莉「チャオ〜☆」

梨子「理事長!」

曜「わわっ、こんにちは!」ゞ ビシッ

善子「その敬礼は正式なポージングなの?」

千歌「こんにちは、鞠莉ちゃん!」

鞠莉「熱心に打合せしてるとこ失礼するわね」

曜「なにかありましたか?」

鞠莉「うふふ…今日が何日か、お忘れかしら?」スッ

梨子「あ…その封筒…」

千歌「本選案内が来る日だーっ!!」

鞠莉「そのとーり! さ、開封しちゃいましょ♪」ニコッ
148   2018/07/28(土) 13:01:13.14
『浦の星女学院スクールアイドル部 Aqours の、第××回ラブライブ!本選への出場を通知いたします。』


千歌「おお〜…っ。チカたち、ほんとに予選を突破しちゃったんだね」

善子「これを見てやっと実感が湧くってどうなの?」

梨子「ヨハネちゃんだって、何回も『本当かしら』って言ってたくせに」クスクス

善子「んにゃあ! 言うなー!」

曜「通知の内容は、ほとんど事前にホームページに載ってた通りだね」

鞠莉「そうね。この通知の大きな主旨はパフォーマンス順序の連絡だからね」

千歌「ううう…っ、わくわくしてきた!」

梨子「千歌ちゃんってば。身体動かしたくて仕方ないーってカオしてる」

千歌「だって! こんなの一秒だってじっとしてられないよ! ね、みんな! 屋上行こうよ!」

曜「り、理事長に来てもらったばっかりだよ?! それに動きだってまだ決まってないし…」

鞠莉「マリィのことなら気にしないで。通知を持ってきただけだから。少しだって無駄にできる時間なんかないデショ?」

千歌「よーっし、それじゃ行くよ! 屋上に集合ーっ!」ガラッ タタタタタッ

梨子「あっ千歌ちゃん?! ちょっと…ラジカセ持っていってよー!」タタタ…

善子「相変わらず慌ただしい人ね」

曜「あはは…すみません、理事長」

鞠莉「ううん。あの power こそが、Aqoursを突き動かしてくれる源でしょ。私も含めた浦の星の全員が、願ってるよ」

曜「ありがとうございます。それじゃ、行こっか。善子ちゃん」

善子「ヨハネだってば!」


タタタ…
149   2018/07/28(土) 13:02:13.47
トコトコ…


鞠莉「さて、執務の続きねー」ンーッ

鞠莉「…あ」

ダイヤ「…」


――善子ちゃん、飲み物買ってこ!

――ちょっ突然方向転換しないで!

ワイワイ…


ダイヤ フゥ…

鞠莉「ダーイヤっ」ツン

ダイヤ「鞠莉さん…」ムニ

鞠莉「溜め息なんか吐いたら、綺麗なお顔が台無しよ」ツンツン

ダイヤ「…なぜ頬をつつくのですか」ムニムニ

鞠莉「ダイヤのほっぺた気持ちいーからね♡」

ダイヤ「肉付きがよいと言いたいのですか?」

鞠莉「ンー、マリィとしてはもうちょっと柔らかいほうが好きかも!」

ダイヤ「…ふふっ。なんですか、それは」

鞠莉「いひひ。やっと笑ったわね」

ダイヤ「ええ…いけませんわね、生徒会長たるわたくしがこんな風に表情をしかめていては」

鞠莉「あのコたちが、羨ましいのね」

ダイヤ「…はい」
150   2018/07/28(土) 13:03:13.29
ダイヤ「千歌さんが生徒会室に飛び込んできたのが、つい昨日のことのようです。

ダイヤ「瞳を爛々と輝かせて一体なにを伝えにきたのかと思ったら、『スクールアイドル部を作りたい』…とは。

ダイヤ「たまたま鞠莉さんが同席してくださっていなければ、つい激昂してしまっていたかもしれない。あるいは、泣き崩れてしまっていたかもしれませんわ。

ダイヤ「言い出しこそただの思い付きだったのかもしれない。それでも彼女は、彼女たちは、一つひとつハードルを乗り越えてみせましたね。

ダイヤ「鞠莉さんがわたくしのことを想って突き付けた『初めてのライブで体育館を満員にしてみせろ』という無理難題をはじめとして、一つひとつ…みんなで力を合わせて、乗り越えてみせてくれましたね。

ダイヤ「そして、今。

ダイヤ「廃校決定という、もう乗り越えることが絶対にできないと決まっている壁を前にして、なお、それでもできるだけのことをしてやろうと息巻いている。

ダイヤ「乗り越えられないなら乗り越えられないなりに、自分たちがやり切ったと誇れるよう、満足できるまで、精いっぱいに。

ダイヤ「それができる彼女たちが、羨ましい――」
151   2018/07/28(土) 13:04:12.51
――おねーちゃー…帰ろー…


鞠莉「この声…」

ダイヤ「ああ、待たせていたのでしたね…」

鞠莉「ダイヤ、」

ダイヤ「…ねえ、鞠莉さん」

ダイヤ「わたくしたちは、どうすればよかったのでしょう」

ダイヤ「大切な人を選び取るために、大切な想いを犠牲にしたのは、間違っていたのでしょうか」

鞠莉「…」

ダイヤ「わたくしにはね、もう…わからないの」


ダイヤ「さようなら、鞠莉さん。また明日」

鞠莉「…ウン。また明日ね」


黒髪がふわりと風になびいて、夕陽を返す。
152   2018/07/28(土) 13:04:56.35
廃校が決定したその年、浦の星女学院にはスクールアイドルが立ち上がった。

発起人は二年生の高海千歌ちゃん。

隣を駆けるのは、同じく二年生の渡辺曜ちゃんに、桜内梨子ちゃん。そして一年生の津島善子ちゃんの、計四名。

私の名前はなく、果南の名前も、ルビィの名前もなく。

当然に、黒澤ダイヤの名前もない。


浦の星女学院スクールアイドルAqoursはラブライブ!決勝本選に出場するも敗退、物語は無情にもあっさりと、その幕を閉じた――

***
156   2018/07/28(土) 21:21:17.71
***

それから更に数年後…


コツ。

石畳を鳴らして、ふと立ち止まる。

都内に比べると手狭な駅…と感じたけれど、思い直す。

改札のすぐ隣にお土産屋さんやパン屋さんが設けられているのも、バスやタクシーが何台も乗り入れられるロータリーが広がっているのも、よく考えれば向こうではほとんど見ない光景。

車線数が少なく、ホームは狭く、改札機もどこか古っぽい。

それでも、案外こっちのほうが敷地を贅沢に使っていると言えるのかもしれない。


『伊豆長岡駅』


ルビィ「久し振りだなあ」


背高な駅舎を仰いで独り言つ。

と、程ない距離からクラクション。

助手席と運転席からそれぞれ覗く懐かしい顔に、思わず笑みをこぼした。
157   2018/07/28(土) 21:22:47.42
ブゥゥゥゥン…


黒澤母「長旅お疲れさまでした、ルビィさん」

ルビィ「うん。でもずっと座っていられたから、そんなに疲れてないよ」

黒澤母「でも三時間ほど掛かるのでしょう? 今夜はぐっすりでしょうね」

ルビィ「んー? ……うん、そうかも」クス

ダイヤ「お母さまはそんなに長い時間電車にお乗りになったことなどないでしょうからね。ぴんと来ないのでしょう」

黒澤母「まあ。ダイヤさん、今しがた母をおひゃらかしましたか?」

ダイヤ「そんなことありませんよ」

ルビィ「お姉ちゃんが運転してくれるなんて思わなかったな」

ダイヤ「電車での長旅の後に、またバスに乗るのも嫌でしょう」

ルビィ「いつ免許取ったの?」

ダイヤ「二十一歳になった頃よ」

黒澤母「助かるのですよ。沼津のほうに行くのもバスに乗らなくてよいものですから」

ダイヤ「はじめは反対なさいましたのにね。今ではすっかり運チャン扱いなんだから」

黒澤母「よいでしょう。持ち腐らせては仕方ありませんよ」

ダイヤ「ふふ…調子のよいことですわ」

ルビィ「…うふふ」クス


ブゥゥゥゥン…

………………

………
158   2018/07/28(土) 21:24:57.15
ルビィ「ただいまー」

ダイヤ「お帰りなさい。随分と久し振りなのではない?」

ルビィ「うん。どのくらいになるかな…」

ダイヤ「年末にもお盆にも帰ってこないで。お母さまも淋しがっていらしたのよ」

ルビィ「うん…忙しくて」

ダイヤ「…そうよね。社会人なんだものね」

ルビィ「…」

ダイヤ「…」

ダイヤ「あなたの部屋」

ルビィ「うん?」

ダイヤ「ほとんどそのままにしてるのよ。落ち着いてからでいいから、少し片付けなさいな。今回で終わらせなくてもいいから」

ルビィ「わかった」

ダイヤ「お夕飯まではどうするの?」

ルビィ「もう少ししたらちょっと出るよ。花丸ちゃんと会う約束してるから」

ダイヤ「そう。お夕飯に差し支えないようにね」

ルビィ「わかってるー。子どもじゃないんだから」

ダイヤ「ふふ。では、後でね」

ルビィ「うん」
159   2018/07/28(土) 21:26:53.98
カラリ…


ルビィ「ただいまー」

ルビィ「ふう」ドサ

ルビィ キョロ

ルビィ「…ほんとに。ほとんど変わってないな」


お母さんが干してくれたのだろう、布団はふわりとやわらかく、わずかにお陽さまの匂いを纏う。

机や棚のレイアウトも記憶のままで、埃も被っていない。


ルビィ「久し振り。わたしがいない間、なにもなかった? 淋しかったよねー」ムギュ


枕の周りを飾るぬいぐるみたち。

幼い頃から傍にいたコを持ち上げて、ぎゅっと抱き締めてみる。

これもほのかにお陽さまの匂い。


ルビィ「…お母さんは優しいなあ」
160   2018/07/28(土) 21:28:49.86
高校を卒業して、内浦を発った日の前日。

せっかく干してくれた布団をみんな放ったらかして、お姉ちゃんの部屋で一緒に眠ったっけ。

畳の匂い、お陽さまの匂い、お母さんの匂い。

好きな匂いはたくさんあるけれど、あったけれど、決意と旅立つ前に最後に包まれたい匂いは一つしかなかったから。


…ギュ


ぬいぐるみに顔をうずめていると、置きっ放していたスマートフォンが震えた。

………………

………
161   2018/07/28(土) 21:30:06.05
花丸「ルービィちゃんっ」

ルビィ「花丸ちゃん! 久し振り!」

花丸「久し振り。もう内浦では会えないかと思ってたよ」

ルビィ「あはは…そんなわけないじゃん。わたしの家はここにしかないんだから」

花丸「その割には何年ぶり? 年末もお盆も帰ってこないで」

ルビィ「それはもうお姉ちゃんに言われたから」

花丸「ダイヤさん…か」

花丸「こんなときにしか帰ってこないんだから」

ルビィ「帰ってきたんだから、もういいでしょ」

花丸「これを機に少しは帰省頻度を上げてほしいものだよ」

ルビィ「善処する善処する」

花丸「しないやつじゃん」

ルビィ「…これでも頑張ってるんだから」

花丸「…わかってるよ」
162   2018/07/28(土) 21:31:32.47
ー松月ー


ルビィ「ん〜、懐かしい匂い」スーッ

花丸「甘い匂いは落ち着くねえ」スーッ

ルビィ「みかんタルトと、みかんジュース下さい!」

花丸「もう夕方だよ。そんなに食べて平気なの?」

ルビィ「それも同じようなこと言われてきたから。もうオトナなんだからだいじょーぶだもん」

花丸「ルビィちゃんが大人かあ。…あ、私も同じので」

ルビィ「花丸ちゃん、もう『ずら』って出ることないの?」

花丸「ないよ。徹底的に治したもん。…でもお酒呑んだときは言ってるって言われる」

ルビィ「治ってないじゃん」フフ

花丸「お酒は仕方ないよ」

ルビィ「また最近もよく呑んでるの?」

花丸「そんなに呑んでないよ。別に好きじゃないからね」

ルビィ「でも強いよね」

花丸「周りが弱いだけだから」

ルビィ「うわ出た。酒豪の物言いだ」

花丸「酒豪とはひどい言いがかりだよ」

ルビィ「前のときだって花丸ちゃん以外みんな潰れちゃったし」

花丸「東京の人と比べたらいくらかはね」

ルビィ「わたしも内浦民なんですけどー」


アハハ… ………
163   2018/07/28(土) 21:33:14.63
…カラン


花丸「…ダイヤさん」

ルビィ「…うん」

花丸「こう言っちゃなんだけど、よく帰ってきたね」

ルビィ「姉だよ? さすがに帰ってこないわけないじゃん。でもだいぶ頑張ったから。頑張ってるから。これはほんとに」

花丸「疑ってないよ」

ルビィ「言ってもわたしだってもう昔ほどじゃないから」

花丸「それならいいんだけど」

ルビィ ズズ…

花丸 モグ

ルビィ「…いや嘘。やっぱりかなり無理」グテ

花丸「…」

ルビィ「えー…ねえ、もー……」

ルビィ「………やだあ」グス

花丸「…よしよし」
164   2018/07/28(土) 21:34:33.66
ルビィ「花丸ちゃんカレシいたことないの」

花丸「なに突然」

ルビィ「カレシじゃなくていいや。お姉ちゃんいたことないの」

花丸「ないよ」

ルビィ「味わってほしいよこの感覚…他人事じゃいられないんだからね…」

花丸「他人事でそんなことになるとは誰も思ってないよ」

ルビィ「えー………ねー………」

ルビィ「………もー…」

花丸「お姉さんがいる友達紹介しようか?」

ルビィ「いいよいらないよ。どうせ理解してもらえないもん」

花丸「身も蓋もないなあ」

花丸「でも、偉いよ」

ルビィ「なにが」

花丸「ちゃんと帰ってきたしさ。お祝いの場にも出るし。実のお姉さんだっていうのを差し引いても、ね」

ルビィ「…」

ルビィ「だって、そうするしかないじゃんか」

………………

………
165   2018/07/28(土) 21:36:01.27
花丸「いつまでこっちにいるの?」

ルビィ「月曜の午前に発つよ」

花丸「そっか。じゃああと一回くらい会えるといいな」

ルビィ「うん。どうせわたし自身は別になにやるわけでもないから。誘ってくれればいつでも付き合うよ」

花丸「ありがとう。でも久し振りの帰省なんだから、ダイヤさんとかお母さんと過ごす時間も大切にしなきゃ」

花丸「特にダイヤさんは…ね」

ルビィ「………うん。わかってる」

ルビィ「…」グッ…

花丸「…」

花丸「それじゃ、またね」

ルビィ「あ、うん。また」

花丸「私は直接言う機会ないから、ダイヤさんに伝えておいて」


花丸「ご結婚、おめでとうございます――って」

………………

………
166   2018/07/28(土) 21:38:36.56
ルビィ「めでたくないし」


夕飯とお風呂を済ませるや自室に引っ込んで、布団の上でふてくされてみせる。

なにが悲しくてお姉ちゃんの結婚に「おめでとう」なんて言わなくちゃいけないのか。

射し込む月明かり。

季節の音に紛れて、遠く聞こえるのはお姉ちゃんたちの談笑の声。


――花丸『久し振りの帰省なんだから、ダイヤさんとかお母さんと過ごす時間も大切にしなきゃ』


せっかく実家に帰ってきて、ただただぬいぐるみと添い寝してやり過ごすなんて、ばかみたいな時間もあったものだ。
168   2018/07/28(土) 21:40:32.84
>>166
このレスは表示されていますか?
「書込エラー」になったのですが
172   2018/07/28(土) 21:45:15.52
明後日には、親戚と地元の人たちを集めて結婚式が行われる。

内浦に限っているとはいえ、そこそこの歴史を持つ名家である黒澤家。

婿入りするという旦那さんの話も何度か聞かされたし画像を送られてきたこともあるけれど、全く記憶にない。画像は読み込みもせずに削除した。

明日の夕方にはこちらに到着するのだとか。

政策的な意味も含めて選ばれたのであろう相手といっても、お姉ちゃんが一緒になると決めた人だ。

きっといい人なのだろう。

笑顔であいさつをして、気さくに接してくれるだろう。

髪を短く整えた背が高めの人で、スーツか袴がよく似合うに違いない。

黒澤家のこと、お母さんのこと、内浦のこと、そしてお姉ちゃんのことを、なによりも大切にしてくれるのだろう。


だから、なんだというのだ。


ルビィ「…名前だって知りたくない」
173   2018/07/28(土) 21:46:33.26
顔も見たくないし、声も聞きたくない。

お姉ちゃんに名前を呼ばれて、お姉ちゃんの名前を呼んで、親しげに笑い合って、手を取り合って、寄り添い合って――そして――


ルビィ「…………っ」


唇を蝕む痛みが、じわじわとした感覚から、はっとするような鮮烈なものに変わる。

そのとき。

コンコン、と部屋の戸が叩かれた。

誰、と問おうとして、咄嗟にうまく声が出せなくて、


ダイヤ「ルビィ? いますか?」


お姉ちゃんであることくらい、聞かずともわかっていた。
174   2018/07/28(土) 21:48:58.02
カラリ


ルビィ「いるよ」

ダイヤ「もう、どうしたの。お風呂あがるなり部屋に引っ込んじゃって…って、電気も点けずに…」

ルビィ「ああ、えっと…ちょっと寝ちゃってた。やっぱり意外と疲れてたのかも…それとも帰ってきてほっとしたかな」

ダイヤ「…」

ダイヤ「あら? あなた、唇が…」

ルビィ「え?」

ダイヤ「血が出てるじゃない。手当てしましょうか」オロ

ルビィ「いいよ。リップ塗っとくから、平気だよ」

ダイヤ「…そう」

ルビィ「うん」

ダイヤ「…」

ルビィ「…」

ルビィ「なにか、用だった?」

ダイヤ「用だったって…お姉ちゃんに向かって随分な物言いをするじゃない」

ルビィ「えっ、ごめん…そんなつもりじゃ…」

ダイヤ「……ねえ、ルビィ。まだ寝ないでしょう?」

ルビィ「寝ないけど…」

ダイヤ「久し振りに、μ'sのライブでも観ましょうよ」

………………

………
175   2018/07/28(土) 21:51:59.63
ルビィ「…」


オーイェー オーイェー オーイェー イッシンイッチョウ!


ダイヤ「…」


オーイェー オーイェー オーイェー ホラ、マッケナイヨネ?


ダイヤ スゥ…

ダイヤ チラッ

ルビィ「…」

ダイヤ「……っ」


クヤシーナマーダノーブラン

シラレーテナイヨノーブラン

ナニモカモーコーレカラー アツイーキブン………
176   2018/07/28(土) 21:54:04.29
ダイヤ「ねえ、ルビィ」

ルビィ「うん」

ダイヤ「μ'sは、今も昔も輝いているわね」

ルビィ「うん」

ダイヤ「目の前の一瞬に全力で、大切な仲間を信頼していて、誰もが追い掛けたくなるような熱さを放ち続ける」

ダイヤ「とっても素敵な人たちね」

ダイヤ「とっても素敵な…スクールアイドルね」

ルビィ「…ねえ、お姉ちゃん」

ダイヤ「なあに?」

ルビィ「わたしのこと、恨んでる?」

ダイヤ「えっ…」

ダイヤ「どうして」

ダイヤ「どうして、わたくしがあなたを恨むことがあるの?」

ルビィ「…」

ダイヤ「何年も帰ってこなかったこと? あなたにはあなたの考えがあったはずなのだから、それで恨むなんてことは」

ルビィ「スクールアイドルを辞めさせたことだよ」

ダイヤ「っ!!」
177   2018/07/28(土) 21:55:11.84
ダイヤ「辞めさせた、なんて…そんな風には…」

ルビィ「事実そうだよ」

ルビィ「わたしがいたから、お姉ちゃんたちはスクールアイドルを続けられなかった」

ダイヤ「そんなこと、」

ルビィ「なくないでしょ」

ルビィ「今ではきちんと自覚してるよ。お姉ちゃんの大切な夢…ううん、わたしたちの大切な約束を奪ったのは、他でもないわたし自身だってこと」

ルビィ「…ほんとは、当時からわかってた。わかってたけど、感情をコントロールできなくって、どうすることもできなかった」

ルビィ「ただお姉ちゃんのことが好きで、好きで、大好きで」

ルビィ「それ以外のなにもかもを、少しも大事にすることなんか考えられなかったの」

ルビィ「ごめんね…」ポロ…

ルビィ「こんな妹で、ごめんね…」ポロ…ポロ…
178   2018/07/28(土) 21:57:01.99
ダイヤ「………………………………あなたが」

ルビィ「え?」グス…

ダイヤ「あなたが、家を出てから、これまで一度も帰ってこなかったのは…」

ダイヤ「それが理由なの?」

ダイヤ「わたくしに後ろめたさを感じていて、だから帰ってこなかったの?」

ルビィ「………………うん」

ダイヤ「…………か…」ズ

ダイヤ「ルビィの、ばか…っ」グスッ

ルビィ「お姉ちゃん…」ハッ

ダイヤ「ルビィのばかっ!」ガバッ

ルビィ「むぎゅ」


ギュウウウウウ…ッ


ルビィ「お、おねえちゃ…くるし…」ペシペシ

ダイヤ「昔から頭がキレる子ではなかったけれど、ここまでばかだとは思っていなかったわ…」ギュ

ルビィ「んな…」
179   2018/07/28(土) 21:58:35.86
ダイヤ「物心がついて、初めてスクールアイドルというものに触れてから、憧れを語らなかった日は一日もなかったわね…」ギュ

ルビィ「…うん」

ダイヤ「μ'sの真似をして、A-RISEの真似をして、歌って…踊って…お母さまにライブの真似事を披露したりもしたわね…」ギュ

ルビィ「……うん」

ダイヤ「年齢を重ねて高校生になる日が近付くにつれて、グループ名を考えては、衣装案を考えては、振付を考えては、ステージに並んで立つ瞬間を待ち詫びたわね…」ギュ

ルビィ「………うん」

ダイヤ「わたくしが高校生になって、果南さんたちとスクールアイドルを結成してからは、いよいよ現実になる可能性に手を伸ばして、毎日いてもたってもいられなかったのよ…」ギュ…

ルビィ「…………うん……それなのに、それ…っ、わたし…」ヒック…

ダイヤ「……果南さんに解散を提案されたときのことは、一日だって忘れたことはないわ。目の前で分厚い扉が閉まってしまったかのようだった――」

ルビィ「ごめ…っ、ごめんなさ……わたっ、ルビっ、うう…」ヒグ…グス…

ルビィ「だから…わたし、もう…お姉ちゃんの傍には、いら…いられないって……高校を卒業するまで、っく…めいっぱい甘えたら…罪を……っ、時間を奪っちゃった償いをっ………っ」

ダイヤ「――それでもっ!!!」
180   2018/07/28(土) 21:59:12.87
ダイヤ「確かにわたくしは、わたくしたちは夢を諦めた…諦めるしかなかった…」

ダイヤ「それは、もしかしたら…あなたが理由だったと、…言えるのかもしれない」

ルビィ「………っ」

ダイヤ「それでも…たとえそうだったとしても!」


ダイヤ ギュ… ギュウ…ッ


ダイヤ「わたくしがルビィのことを恨んだり、嫌いになったり、それが絶対に有り得ないってことくらい…あなた自身が誰よりもわかっていてよ!!」

ルビィ「――――っ!」
181   2018/07/28(土) 22:00:35.39
ダイヤ「ルビィ」スッ

ダイヤ「あなたはたった一人の大切な妹」

ダイヤ「長年の夢がだめになったって、友人との絆が淡くなったって、そんなことはどうでもいいと言ってしまえるほど…」

ダイヤ「わたくしにとっての、かけがえのない宝物なのよ」

ルビィ「おねいちゃん…」

ダイヤ「あなたが傍にいなかった数年間、どれだけ淋しかったと思っているの?」

ダイヤ「お姉ちゃんのことを、一人にしないでちょうだい」ニコ

ルビィ「――――〜〜〜〜……っっ!!」

ルビィ「おね…っ」

ルビィ「おねいちゃああああああああ……っ」ビエエエッ

ダイヤ「よしよし…やっぱり、あなたは変わらず泣き虫ねえ」ナデ…

………………

………
182   2018/07/28(土) 22:02:38.98
ルビィ「今日は一緒に寝る!」

ダイヤ「お母さまがルビィの布団を干していらしたわよ」

ルビィ「知ってる!」

ダイヤ「やれやれ…途端にこうなのですから…」クスクス

ルビィ「布団では明日でも明後日でも寝れるから」

ルビィ「でも、」ギュ

ルビィ「おねいちゃんとは…今夜までしか、一緒に寝れないでしょ」

ダイヤ ギュ…

ダイヤ「そうね」

ダイヤ「電気、消すわよ」

ルビィ「うん」


パチ
183   2018/07/28(土) 22:04:23.69
ルビィ ギュ…

ダイヤ ギュ…

ルビィ「おねいちゃんとこんな風にして寝られるの、嬉しいな」

ダイヤ「とても懐かしいわね」

ルビィ「やっぱり、こうして寝るのが一番落ち着くかも…」

ダイヤ「ふふ。わたくしも」

ルビィ「ねーえ、おねいちゃん」

ダイヤ「なあに、ルビィ」

ルビィ「ルビィのこと、好き?」

ダイヤ「当然でしょう。大好きよ」

ルビィ「ルビィもね、おねいちゃんのこと大好き」

ダイヤ「ありがとう。嬉しいわ」

ルビィ「…ねーえ、おねいちゃん」

ダイヤ「なあに、ルビィ」

ルビィ「ルビィのこと、旦那さんより好き?」

ダイヤ「ええ?」

ダイヤ「そんな答えづらいことを………」

ダイヤ「…ルビィ?」


ギシッ


ルビィ「ルビィはねえ」

ルビィ「おねいちゃんのこと、他のどんな誰よりも」


ルビィ「いっちばんに、好きだよ――――♡」

***
190   2018/07/29(日) 15:30:31.44
***

――ルビィ『それじゃ、行ってきます』


東京へ行く。

ルビィがそう言い出したのは、彼女が高校最後の夏休みを終えようという頃だった。

母が言うには、はっきりしない言い方ながらも三者面談では進学するようなことを言っていたようで、てっきり大学へ進むものだと私も思っていた。

黒澤という家柄、沼津から――もっと言えば内浦から出る選択肢など頭になかった私は、とても面喰らったのを覚えている。

とはいえ、短大か、大学か…学びの場として一時的に東京へ身を置くというのであれば、それはありふれた選択肢の一つだから、さして驚きもしなかっただろう。

しかし。
191   2018/07/29(日) 15:32:13.09
――ダイヤ『就職?!』

――ルビィ『うん』

――ルビィ『東京の会社にね、就職しようと思うの』

――ダイヤ『そんな簡単に…あのね、一度会社に入ったら、そうそう辞められるものではないのよ?』

――ルビィ『どうして入る前から辞める心配なんかしなきゃいけないの。変なおねいちゃん…』

――ダイヤ『だって、あなた!』

――ダイヤ『向こうで就職するってことは、生活の拠点が向こうになるってことで、だから…』

――ルビィ『うん。もちろんそのつもりだよ』

――ルビィ『なかなか帰ってこられなくなっちゃうかもなあ』
192   2018/07/29(日) 15:33:57.26
母と、学校の先生と、何名かの親戚の方々と。

よもや思いもしなかったルビィの選択に、誰もが口々に真剣さを問い、また心変わりを説いた。

けれど、意志の根幹が一体なにに寄り添っているのか――彼女は決して首を縦には振らず、手際よく数社の採用試験をこなして、あっさりと内定を勝ち取ってしまった。

大企業というほどではないにせよ、それなりに聞こえた企業の内定通知書を囲んだのは、十月の半ばだった。

ここ一ヶ月ほど『楽しい団欒の場』から遠のいていた夕食の席でお披露目されたその報せに、母が覚悟を決めたのが伝わってきた。

もちろんルビィ自身の意志に揺らぐところなどない様子で、不服ながら、もはや私一人がいくらか喚いたところでなにも変わらないのだと――出せる言葉を失った。

私が高校を卒業した頃からじわじわと感じ始めていた彼女との距離の開きは、事ここに至ってかなり顕著になっており、それからの半年間ほどは夕飯の席以外で会話した記憶もほとんどなく、そして――


――ルビィ『それじゃ、行ってきます』


腕の中にわずかな匂いを残して、振り向くこともないまま、ルビィは私たちのもとを後にした。

………………

………
193   2018/07/29(日) 15:39:32.28
――黒澤母『ルビィさんは元気にやっているようですよ。東京はどこへ行くにも電車に乗らなければならなくて、人が多いから大変だとのことです』

――ダイヤ『そうですか。元気そうなら、なによりですね』


――黒澤母『この連休には帰ってこられないそうです。繁忙期に掛かるので、入社したてのルビィさんの手でも借りたいほどだそうで』

――ダイヤ『残念ですね…時期をずらしてでも帰ってきてくれるとよいのですが…』


――黒澤母『向こうでご友人もできたようで、夏は東北へ旅行に行くのだそうですよ。お盆も難しいのでしょうか…』

――ダイヤ『わたくしからも聞いてみますね…』


――黒澤母『ダイヤさん。年末の寄り合いにルビィさんが出られないことを、吉村さんに連絡しておいてくださいますか?』

――ダイヤ『ええ…わかりました』


――黒澤母『二十三歳のお誕生日、おめでとうございます…ダイヤさん。大きくなりましたね』

――ダイヤ『…今年も、この席にルビィはいないのですね』

――黒澤母『…そうですね』

………………

………
194   2018/07/29(日) 15:41:36.90
――ダイヤ『回覧板をお持ちしましたよー』

――『ああ、ダイヤちゃん…いつもありがとうねえ。お茶でも出そうかしら』

――ダイヤ『お気遣いなく。今日は用事が控えていますので、改めて伺いますわ』

――『そう。気を付けてね』

――ダイヤ『ええ。それでは』


トコトコ…


――ダイヤ『あら』

――花丸『ダイヤさん。こんにちは』ペコ

――ダイヤ『こんにちは。花丸さん…でしたね』

――花丸『はい。国木田花丸といいます』

――ダイヤ『昔に見かけたことがあると思いますが、いっそう綺麗になりましたわね』

――花丸『ええっ、そんな…ダイヤさんにそう言ってもらえるほどのものじゃありませんから…』

――ダイヤ『うふふ。それこそ嬉しいお言葉ですわ』

――花丸『………ルビィちゃん』

――ダイヤ『! ……』

――ダイヤ『そうでしたね、花丸さんは確かルビィと親しくしてくださっていると』

――花丸『…今って、少しお時間ありますか?』

――ダイヤ『え?』

――ダイヤ『…………ええ、少しなら。車を出しましょうか』
195   2018/07/29(日) 15:45:57.86
ー松月ー


――花丸『ルビィちゃん、全然帰ってきてないんじゃありませんか?』

――ダイヤ『…ええ。お察しの通り。高校を卒業して以来、一度も』

――花丸『やっぱり…』

――花丸『実は、私、ルビィちゃんに何度か会ってるんです』

――ダイヤ『えっ?! そうなのですか?!』

――花丸『はい。と言ってもこっちでじゃなくて、向こうで…ですけど』

――ダイヤ『向こうとは、東京のことですか?』

――花丸『そうです。ルビィちゃん、私とは仲良くしてくれるから…遊びにいったり、泊まりにいったり、何度か』

――ダイヤ『ルビィはっ』

――ダイヤ『ルビィは、元気でやっていますか?!』

――花丸『…っ! 元気ですよ。頑なにこっちに帰ってこようとしないこと以外は、ルビィちゃんのままです』
196   2018/07/29(日) 15:46:57.27
――ダイヤ『そう…ですか。やはり、意図的に帰らないようにしているのですね…』


薄々そうではないかと、…いや、わかりきっていた。

いくら多忙とはいっても、数年にわたって一度も帰省しないなど、意図的でなければ有り得ないことだ。

私も母もわかっていながら、ルビィが言う『忙しい』という言葉を呑み込んでいただけ。

きっと、あの子の中のなにかが不完全なままになっていて、それを消化するために必死に闘っているのだろう。

それならば、たかがこれしきの淋しさで、その決意を邪魔するわけにはいかない。


――ダイヤ『いえ、よいのです。あの子のことだから、なにか考えていることがあるのでしょう。そんなことより、元気でいるのならそれでいい…』

――ダイヤ『あの子は、もう…最近はろくに連絡も寄越さないで…昔から心配させてばっかりなんだから…』

――花丸『…ダイヤさん、』

――ダイヤ『花丸さん。不甲斐ない姉妹で申し訳ありませんが、あの子のことを…よろしくお願いいたします』

………………

………
197   2018/07/29(日) 15:51:12.10
ルビィの中で不完全になっていること。

私に心当たりがあるとすれば、やはりスクールアイドルの件。

幼い頃から二人で憧れてきた夢を、いざこれからという段階に至って、諦めざるを得なくなったこと。

当時は感情の整理が追い付かず困惑するばかりだったけれど、今になってきちんと考えれば、答えははっきりと出ていた。

果南さんが察していらしたように、また本人の口からも聞こえたことがあるように、ルビィはただ淋しかっただけ。

長年最も近くで寄り添ってきた『姉』という存在が、離れ、誰かのものに――あるいはみんなのものになってしまうのではないかという恐怖が、足を竦ませてしまった。

それだけのこと。

確かにわずかな悔しさは残っているけれど。

あなたを縛り付けているものがそれだというのなら、どうか…どうか気付いてほしい。


――ダイヤ『あなたの笑顔を失ってまで貫きたい想いなど、わたくしにはないのだということに』

………………

…………

……
198   2018/07/29(日) 15:52:48.07
やがてまた時は流れ、私の身の回りでもある変化が起こった。


――ダイヤ『結婚…ですか』

――黒澤母『もちろん、今すぐに相手を見定めどうこうなさいという話ではありません。ですが、当家の後継について、そろそろ考え始めても遅くはない頃合いでしょう』


短くない時間を掛けて母と私とで様々なことを考慮して相手の方を選び、交際を始め――そして。


――ダイヤ『入籍することに、決めました』


いくらかの距離を経ての交際ではあったものの、母へのあいさつも含めて足繁く内浦へ通ってくださったり、婿入りという形で黒澤家に入ることを真剣に考えてくださったり。

伴侶として充分に信頼できる相手だと、そう心得た。

それからは話の進みも速く、とんとんと両家の親交も深められ、式の日取りまであっという間に決まってしまった。

実妹でありながら、もはや『没交渉』と言ってしまってもよいほどに疎遠であったルビィに、恐る恐る招待状を送り――


誰よりも早く出席の返信が返ってきたときには、思わず小躍りしてしまうほどの喜びだった。


――と、いうのに…

***
199   2018/07/29(日) 15:54:38.03
***

ダイヤ「――ルビィっ…」


ギシッ


どうして、私は、今、


ダイヤ「…っ、ぁぁ……るび、やめなさ…」


ギッ ギッ


結婚式を明後日に控えた今、あなたに、


ダイヤ「だめ、やめて……るびぃ…………」


ダイヤ「ぃやぁ……っ、それ…もうっ……」


ダイヤ「――――――――っぁぁあああ!!」


実の妹に、犯されているのだろう。

………………

…………

……
201   2018/07/29(日) 16:07:02.76
スクールアイドルを辞めさせたこと。

それで、お姉ちゃんに対して後ろめたさを感じていたのは嘘じゃない。

随分と遅くなったけれど奪ってしまった時間を少しでも返したかったという気持ちも、嘘ではなかった。

けれど。

そんなことはほんの些細で、どうでもいいと思えてしまうほどの理由。

高校を卒業するなり逃げるように実家を、内浦を飛び出して、お姉ちゃんから距離を取ったたった一つの理由。


お姉ちゃんのことが、好きだから。


三年生になった頃から、少しずつ少しずつ姉離れを試みてはみた。

でも、私の心を少しだって変えてはくれなかった。

お姉ちゃんが好きで、お姉ちゃんが大好きで、この気持ちはどうしようもなくって、ただただいたずらに距離が開いていくだけだった。
202   2018/07/29(日) 16:08:19.05
お姉ちゃんの近くにいては、もうだめなんだ。

そう悟るのに時間は掛からなかった。

顔を見れて、声を聞けて、手を繋げて、匂いを嗅げて、頭を撫でてもらえて、優しさを感じられて――そんななにもかもが届くところにいて、この気持ちを殺せるわけなんかなかった。

姉離れをしなければいけないと、いつかお姉ちゃんは絶対的に誰かのものになるんだと、いくら言い聞かせても、逆効果にしかならなくて。

それならば、もう、いっそのこと。

お姉ちゃんのことが好きで好きで仕方ないこの感情が失われるのと同じくらいに、お姉ちゃん自身を傷付け、これ以上縛り付けてなにかを奪ってしまうのが嫌だったから。

進路に迷いはなかったように思う。
203   2018/07/29(日) 16:09:40.02
上京してからの日々は、それはそれはつらかった。きつかった。

毎晩お姉ちゃんのことを想って泣いた。

感情が安定しなくて会社に行けなかったこと、早退するしかなかったことは、一度や二度じゃない。

ゴールデンウィークに、お盆に、年末年始に…それどころかなんでもない三連休にもただの週末にも、なんなら金曜日に仕事帰りのその足で沼津へ向かう電車に飛び乗りたいという衝動と闘った。

一年経って泣く夜が二日に一回になり、二年経って一日も欠勤しない月があるようになり、三年経って休日に友人と出歩けるようになった。

高校時代はとりわけ仲良くしていたというわけでもないのに、花丸ちゃんがかなり頻繁に会いにきてくれたことも助けの一つになっていた。

そうしてやっと一人きりの生活に慣れた頃、お姉ちゃんから手紙が届いた。


『招待状』


封を破るまでもなく一目でそれとわかる手紙を開けるのは、強い決心が必要だった。

大丈夫、大丈夫、大丈夫…繰り返し自分に言い聞かせながら、無心で返事を書いて休みを申請して電車の手配をした。
204   2018/07/29(日) 16:12:31.03
そうして何年ぶりかに会ったお姉ちゃんは、変わらず優しくて、でも以前の何倍も綺麗になっていて――


ああ――やっぱり私はこの人のことが、好きで好きで仕方ない――


――数年間の必死の努力を無に帰すには、充分すぎた。

………………

…………

……
205   2018/07/29(日) 16:13:18.09
ダイヤ「――ルビィっ…」


ギシッ


大好きなお姉ちゃんの声。


ダイヤ「…っ、ぁぁ……るび、やめなさ…」


ギッ ギッ


大好きなお姉ちゃんの匂い。


ダイヤ「だめ、やめて……るびぃ…………」


嫌なの。


ダイヤ「ぃやぁ……っ、それ…もうっ……」


嫌で嫌で仕方がないの。


ダイヤ「――――――――っぁぁあああ!!」


お姉ちゃんの初めてが、他の誰かに奪われてしまうなんて。

***
206   2018/07/29(日) 16:14:17.86
***

ルビィ カリ…

ダイヤ「…ルビィちゃん」

ルビィ「…」カリ…

ダイヤ「ルビィちゃんは、何歳になったの?」

ルビィ「おねいひゃんの、ふたつひたらよ」カリ…

ダイヤ「そうね。だったら、そろそろツメを噛むクセは治さなくてはね」

ルビィ「…」カリ…

ダイヤ「いつまでもこうしていられると思ってるの?」

ルビィ「…だからだもん」カリ…

ルビィ「…今日しか、ないんだもん」

ダイヤ「……」

ルビィ「おねいちゃあ、すき」

ダイヤ「わたくしだって。誰よりもあなたのことが好きよ」ナデ

ルビィ「えへへ…」カリ…

ダイヤ「………ふふ」ナデ…ナデ…
207   2018/07/29(日) 16:15:18.54
あなたのことが、誰よりも好きよ。

この気持ちに偽りはないの。

たとえなにを失い、手放し、裏切ることになるのだとしても――


ダイヤ「あなたの笑顔を失ってまで守りたいものなど、わたくしには一つだってないのだから」



終わり
208 名無しで叶える物語 2018/07/29(日) 17:47:15.41
oh……
209 名無しで叶える物語 2018/07/29(日) 18:06:13.17
乙です……ォゥ
210   2018/07/29(日) 19:17:10.75
夏ということで黒澤姉妹のssでした
ルビィが高校進学までに闇を取り払えていたらアニメ正史だったのかな〜なんて、書きながら考えていました
214 名無しで叶える物語 2018/07/30(月) 00:06:38.72
乙、分かりやすいまでの共依存エンドは中々くるものがあるな
趣があればダイよしとかどうですかね…

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