2018/12/24(月) 07:47:40.15
真姫「ここにいても暇ね」

何のことはない放課後。
委員会も。
補修も。
練習も。
本当に何もない放課後。
珍しくもない放課後。

真姫「...さっさと帰ろ」

正面玄関まで一直線。
真姫は歩き出した。


  2018/12/24(月) 07:48:09.80
歩く。
歩く。
無心に歩く。
止まる理由が無い。当たり前に歩く。

真姫「...?」

違和感。
鼻腔をくすぐる。
異臭。
不意に、足が止まる。
  2018/12/24(月) 07:48:38.32
真姫「ここ...よね?」

生徒会室。
生徒会室。
飽くまでも生徒会室。
臭いの元凶。
ファストフード店で。喫茶店で。駅前で。
感じる事のある。
あの臭い。
その元凶。

真姫「...マジ?」
  2018/12/24(月) 07:49:47.78
思い返す。
誰だ。
ここにいるのは。
教師か?ーー冗談ではない。真姫に注意など出来ない。
穂乃果か?ーーありえない。あの穂乃果が?繰り返す、ありえない。
海未か?ことりか?ーーあってたまるか、そんな事態。思考から揉み消す。

真姫「...っ」

歩き出したい。
見なかったことにして。
後にしたい。
  2018/12/24(月) 07:56:33.78
ガチャン

勝った。
真姫の好奇心が。
どこのどいつだ。
後悔させてやる。
誰しも持ちうる。
そんな好奇心だ。
直後。
真姫に電流走る。
  2018/12/24(月) 07:57:44.77
真姫「アンタ...」

金髪。ーーしかもポニテール。
碧眼。
ブレザーの上からでも分かる。
豊満な乳。

絵里「...!!!」

絵里だった。
絵里だった。
目を疑った。
疑ぐる余地なんて無かった。
聡い真姫は直ぐに察したのだ。
  2018/12/24(月) 07:58:38.69
絵里「真姫...!!これは違うの!」

何が違うというのか。
律儀にも換気扇の下で咥えている。
それはなんだ。
大体、生徒会室にいつ換気扇が取り付けられたというのだ。
そんなことは、今はどうでもいい。
顔。
絵里の顔が青ざめている。
イメージカラーのアイスブルーなんて目ではない。
真っ青。
元々。色素の薄い顔から。
血の気が無くなっている。
  2018/12/24(月) 07:59:52.53
絵里「違うの...違うのよ......!!」

ひり出す、弱々しい声。
カタカタ、と。聴こえて来そうだ。
体の震え。
歯を鳴らす音。
緊張しているのだろう。当たり前だ。元生徒会長の犯す。
非行。
その自覚。
先端の火は、未だ消さない。
  2018/12/24(月) 08:00:30.57
近寄る。
肩に触れた。
ビクンッ、と。身体が震える。
そう緊張していたら尿意も半端じゃないだろう。
尋問を受ける容疑者。
今の絵里は見事にそれになっていた。

真姫「エリー」
絵里「......」

おしの如く黙り込む。
無理もない。
そんな絵里に見せるように。
真姫は、おもむろに取り出した。

絵里「...え?」
真姫「私も良いかしら?」
10   2018/12/24(月) 08:01:24.51
鉛色に光る。
否ーー
鈍い銀色に光る。
ジッポ。

絵里「えっ...真姫、吸うの?」
真姫「ダメ...とか言うの?」
絵里「そうじゃなくて...」
真姫「まあね。私も時々」

そう。吸うのだ。
続けて取り出す。
おもむろに。
淡い黄色、クリーム色の箱。

絵里「それって...」

ニイッ、と思わず頰が釣り上がる。
指を立てる。
人指し指と中指だ。

真姫「そう。ピースよ」
11   2018/12/24(月) 08:03:42.85
絵里のものも見せてもらう。
水色のパッケージ。
ハイライト。
ライターは100均で売られているようなものだった。
水色。
揃って絵里の色だった。

真姫「ふふ、法を破ってハイライトとはね」
絵里「こ、好奇心に負けたのよ...ダメなものだとは分かっていたのだけれど...どうしても」

あの絵里が、珍しく俯く。
頼もしい練習時。
それとは、まるで別人のよう。

真姫「...エリー、罪を被る時は、一緒に行くわよ」
絵里「私の罪は私で償うわ」
真姫「仲間じゃない。それに...もう吸い友よ」
絵里「飲み友ならぬ、吸い友...そう言うのね、私たち」

言わない。
そんなダサい呼称で、言ってたまるか。
つくづくピュアだ。
12   2018/12/24(月) 08:04:24.46
絵里「あっ...」

灰皿に置かれたそれを、真姫が咥える。
鼻腔ではない。
口腔で感じる。
ツンッ、とした味わい。
ハイライトならでは、だ。

真姫「...うん?」

ふと、目をくれる。
絵里の顔。
血が通っていた。
赤面していたのだ。
どこまでピュアだ。
釣られて、熱くなる。
私の顔。
13   2018/12/24(月) 08:05:33.87
真姫「...気にするクチだったかしら」
絵里「...いいえ。急な出来事だったものだから」

そう。気にしないのだ。無論、相手を選ぶが。
絵里は。
あのリーダーは。
あのアイドルオタクは。
妹を持つメンバーは、みんなそうだった。
どこか、たくましい。

絵里「あなたのもくれるかしら?」

言わずもがな。
人のモノをいただいておいて、自分のモノはくれない。
かっぱらいではないか、それでは。
そんなゲスではない。
等価交換である。
14   2018/12/24(月) 08:06:30.97
シュボッ。
安物のライターが火を噴く。
灯す。
先端に。

絵里「...いい匂いね」

弁えている。楽しみ方を。
そう、まずは香り。
流石は、出来る女だ。
そして、吸う。

絵里「...ケホッケホッ」

吸いすぎだ。
ここは、なっていなかった。
ペースというものを知らない。
素人である。
15   2018/12/24(月) 08:08:20.16
真姫「まるで素人ね」
絵里「!!」

やってしまった。
つい口に出た。出てしまった。

絵里「...」

目を背けられた。
身体ごと。

真姫「え、エリー。ごめんなさい。今のはほんの出来心で」

魔が差した、なんて言えない。
誤魔化す。
そう、出来心。出来心なのだ。
飽くまでも出来心。
そう言っとけ。
16   2018/12/24(月) 08:10:02.65
絵里「そう」
チマチマ吸うのよね。

振り返りながら、言った。
...分かってるじゃない。
なんだと言うのだ。この女は。

絵里「ふふっ、言うようになったわよね」
真姫「な、何よ」
絵里「この私に素人だなんて。昔の真姫ならあり得ないわよ」

飲まれていく。
私のペースが、彼女に。
蝕まれていく。
つくづくたまらぬ女だった。
刹那、
この空間を切り裂く、

ガチャッ

異音がひとつ。
17   2018/12/24(月) 08:11:12.21
真姫「!!!」
絵里「!!!」

毎日、見ている顔だった。
そして、聞いている声。
ともすれば、
渋谷や原宿を闊歩してそうな顔つき。
通りのよいスピーカーのような声色。
そんな女だった。
我々は彼女を知っている。
知りすぎている。

穂乃果「あれ?二人とも何してるの?」

高坂穂乃果だった。
18   2018/12/24(月) 08:14:06.75
絵里「ほ、穂乃果......!!」
真姫「違うの...違うのよ......」

さっき聞いたセリフ。
そのリピートだ。
屈辱的だった。
しかし、言わずにはいられない。

穂乃果「ふむふむ」

見つめる。
締まりのない目が。
反面、表情は違った。
取った。言質を。
取った。証拠を。
取った。現場を。
そんな顔。
19   2018/12/24(月) 08:16:09.68
私たちは黙り込む。
よりによって穂乃果に、最大の恩人に、
見られた。
終わりである。

穂乃果「安心して」

『誰にも言わないよ』
そんな言葉は慰めにならない。
断じて、だ。
やめてくれ。
やめてくれ。

すると穂乃果は、
スッ、とカバンに手を伸ばした。
20   2018/12/24(月) 08:16:47.21
出てきたものは、小さなポーチ。
そこからさらに、取り出す。
取り出したモノを見て、我々は呆気に取られる。

絵里「へ?」
真姫「ウソ?」

間の抜けた声だ。
揃いも揃って。
当然、穂乃果も。

穂乃果「うん、葉巻だよ!」
21   2018/12/24(月) 08:18:10.96
失笑した。
腹の底で、突沸を起こしたモノ、抑えること敵わず。
その成りでーー何が葉巻だ。

穂乃果「ヒドい!二人共、笑いすぎだよ!」
真姫「ははは...ごめんなさい、可笑しくて」
絵里「格好付けようとしても...ふふふっ、一層、可愛く見えるわよ」

むぅぅぅ、と膨れる頰。
つつきたかった。
が、ここは抑える。
トンだムードメイカーである。
22   2018/12/24(月) 08:19:23.75
葉巻を取り出す。
先端をカット。ーーハサミでは無い。ギロチンカッター。
火で炙る。全体を、満遍なくに、だ。
そして、灯す。
この一連がまた早い。
淀み無し。
なんて女だ。

絵里「穂乃果...随分、手慣れてるわね」
穂乃果「へへへ...家でたまに吸わせてもらうんだ。それをたまたま持ってきちゃって」

たまたま、ね。
今日はまぐれが重なりすぎだ。
運が良いのやら。
悪いのやら。
それにしても、シガーマッチまで所持してるとは。
にわかに信じがたかった。
23   2018/12/24(月) 08:20:24.00
穂乃果「気になるって感じだね。吸ってみる?」
絵里「ええ...でも、吸い方が」
穂乃果「大して変わらないから大丈夫だよ。でも、これは味を楽しむものだからーーー」

手取り足取り、とはこの事だろう。
親切なものだ。
わざわざそんな所から教えるのか。ーー慕われる理由、か。
思えば私もそうだった。

穂乃果「へへ、絵里ちゃんかっこいい!」
絵里「ほ、ほうかひら」

絵里は、穂乃果としても...気にしない。
ちょっぴりだが、悔しい。
24   2018/12/24(月) 08:21:10.24
絵里「ふぅ、ありがとう。なかなか燃えないのね」
穂乃果「太いからねえ...ん?真姫ちゃんもどう?」

「御免被る」
そんな事は言わない。
そんな水臭い事はしない。

真姫「いただくわね...ふぅ」

スモーキン。
煙を吸ってるのだ。当然だ。
それとは別。燻製の味わい。
それにナッツ、さらに脂のテイスト。
そして、何より、
甘かった。
25   2018/12/24(月) 08:21:42.68
穂乃果「どうしたの?」
絵里「なんだか恍惚としてるわね」

しまった。
間抜けを晒した。たまらず顔が熱くなる。
油断した。この二人といると、いつもそうだ。

絵里「楽しめてるみたいね」
穂乃果「よかった、真姫ちゃん舌肥えてるし、不安だったんだよね」
真姫「大きなお世話よ」

アンタたちが吸った後だ。
不味いわけがない。
26   2018/12/24(月) 08:23:26.78
絵里「さて、そろそろ帰りましょう」
穂乃果「私、来たばっかだよ...」
絵里「じゃあ...真姫の家にでもお邪魔させてもらおうかしらね」
真姫「無理よ。そんないきなり」
絵里「当然よね。それじゃあ喫茶にでも行きましょうか」

わあっ、と喜ぶ穂乃果。
穂乃果の手綱は、絵里に任せるとして。
私も話に乗る。
ゆっくりしたかった。

今日は ーーそして明日も、そのまた明日もーーー 彼女達に委ねるとしよう。
存分に。

真姫「まったく、後始末くらいしっかりしなさいよね」
27   2018/12/24(月) 08:24:14.66
終わり
28   2018/12/24(月) 08:34:10.54

穂乃果ちゃんは意外とこういう粋な遊びに通じてそう
29   2018/12/24(月) 08:56:50.80
いい雰囲気
30   2018/12/24(月) 10:02:17.32
ハイライト吸ってみたくなったわ
31   2018/12/24(月) 10:02:55.93
気持ち悪ぃ文章だな
32   2018/12/24(月) 11:19:53.83
ロンピかよと思ったらマジでロンピだった
33   2018/12/24(月) 11:23:01.80
缶のピースってまだ売ってんのかな
34   2018/12/24(月) 11:40:06.85
良い
喫煙SSもっと増えろ
35   2018/12/24(月) 12:04:29.37
なかなか良い雰囲気
真姫ちゃんがえりちを可愛がるってのも新鮮で良いね
37   2018/12/24(月) 14:43:38.46
制服に匂いつくからあかんよ
グローにしよ

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